いよいよ実家に帰ることになり、側近の加藤に送ってもらおうとしたら、結城も一緒についてきた。
コミュニケーション能力不足を緩和するために、僕は今回、たっての希望で普通の高校に行かせてもらうことになった。しかしそれにあたり宮殿から直接通うのはよくないということになり、初めてづくしのついでに、実家に帰ってみることになったのである。・・・でも今更、どんな顔をして会えばいいのか。
「まあ最初はいろいろあると思うけど、出来るだけ自分で解決しろよ。ただ、どうしても困ったときには、宮殿に帰ってくればいいから」
うん・・・。これまでも、時々実家に帰ることはあったけれど、正直なところあまり居心地のいい場所とは思えなかった。やはり僕たちは離れて暮らしすぎた。必死に家族を否定しようとした僕には、昔のように接する事は難しく、家族と呼べるのは結城や殿下のような気がしている。でも頑張らないと・・・。
一つ深呼吸をして、僕はインターフォンを鳴らした。
「お帰りなさい」
母の祥子(さちこ)は、僕の顔を見るなり首に腕を回して抱きついてきた。
「ただいま」
「これからはゆっくり過ごせるのね」
・・・気持ちは分かりますが、その抱擁は熱烈すぎませんか?これから毎日過ごすのですから、ほどほどにしてくださいよ。なんて、やはり少し冷めた自分がいる。
「失礼いたします。国王陛下と響から手紙を預かってまいりましたので、お目をお通しください」
「・・・もう、いいんですよ」
え?母は僕から手を離し、結城に向き直った。
「こんなに立派に育てていただいたんですから。結果よければ、すべてよし、です」
「いえ、まだ評価していただくには早いと思います。まだ至らないところがあり、それは私の責任でもあります。・・・何とお詫びをしたらよいか」
「結城!ちょっとやめてよ!」
深々と頭を下げた結城を、僕は抱き起こす。
「至らないのは僕のせいで、結城じゃないから。もう、そういう話はやめてよ」
「・・・そうか、ありがとう」
毎週土曜日は宮殿で食事をしよう、と結城が軽く抱擁しながら囁いた。・・・うん。やっぱり、こっちのほうが落ち着く。
「無理しなくていい。時間をかけてほぐしていけばいい」
うん、分かっている。とりあえずやれるだけやってみるしかない。