まだあの感覚が身体の中に残っている。
あの瞬間僕は、僕ではない全くの別人になることができた。・・・それがこんなにも快いことだなんて、知らなかった。
「えらくゴキゲンだな」
テーブルの向こうの結城は、いぶかしむように僕を見ていた。・・・あらゆる報告は加藤からいっているので、事情は知っていると思うけど?
「こう気分がいいと、仕事にも精が出るというものだよ」
学校に行くのが億劫だと思っていた数日前の僕とは大違いだ。
「後で兼古先輩にも、誉めていただいたんだよ」
「兼古くんが・・・、大丈夫かお前?」
「何が?全然問題ないよ。兼古先輩はとてもいい人だから」
「そうじゃなくて、お前がだよ」
そして結城は心配そうに僕を見たが、・・・ま、いいけどな、と目を反らした。
「その言い方気になる!」
はっきり言ってよ。
「心配なんだよ。・・・ほら、警戒心の塊みたいなお前が、こんな風に浮かれて無防備になっているなんて、見たことがなかったから。・・・いや、いいんだ。お前が本当に幸せを感じているのなら、俺の取り越し苦労に違いない」
・・・そうだ。結城はいつも僕の味方で、僕のために喜んでくれたり、逆の僕のために叱ってくれたりする。僕のことを一番理解しているのは、おそらく僕自身よりも結城なのだ。
「ありがとう、心配してくれて。本当に楽しいんだ。・・・でも、オーディションに受かっていたらの話なんだけどね」
「・・・それもそうだな」
僕には帰ってこれる場所がある、それだけで幸せなんだよ。