部活終了後、美智と俺は部長に呼ばれて、一緒に昼食を取ることになった。
「留守中、よろしくな」
・・・そういう時は美智に向かって言うのが部長らしい。よく心得ていらっしゃることで。
「いや、実際、次の部長は清水さんにお願いしたいと思っているんだ。今回のビデオドラマ制作にあたっては2年生が初めて指揮を執ることになるわけだから、3年引退後の予行演習として、この機会を有意義に使ってほしいと思って、二人に来てもらったんだ」
美智は小説家の母を持っていることもあるのか、脚本と演出に興味を持っている。よって、実際に演じる俺たちとは違い、役者や裏方をまとめて一つの作品に作り上げる立場にある。それはつまり、部全体をまとめるということにもなり、部長に向いている、と俺も思う。
「清水さん、今年の1年はどうかな?」
「村野さんは脚本家志望ということで一緒に書いていきたいと思いますし、役者に関してもなかなか頼もしそうです。実はすでに構想がありまして・・・いずれは、祐輔と沢渡くんを兄弟役にしてみたいと考えています」
「随分美男な兄弟だな」
部長は笑った。・・・沢渡が弟。あんなヤツが家にいたらどうかな?なのはさておき、アイツにはやはり王子系な役しか出来ないんじゃないかな?
「それもなんですけど、私は沢渡くんに底知れぬパワーを感じるのです。きっと彼はやってくれます」
「随分はっきり言い切るね」
「人を惹きつける何かがあります。だから祐輔、ぜひ彼の演技力を磨いてあげて。部長もよろしくお願いします」
美智までそんなことを・・・。
「清水さんの気持ちは分かる。でも俺は、沢渡を特別扱いしたくはないんだ。彼には逆に存在感がありすぎる。1年のうちから人目を惹きすぎるのは困る」
それはつまり・・・。
「1年のうちにしっかり下積みをさせることだ。ビデオドラマに関しては別に構わないが、今回のコンクールには彼を出さない。演出の仕方を教えてあげてほしい」
・・・一番警戒しているのは部長ということか。