「沢渡くんって彼女いるの?」
「いや、別に」
いつか聞かれるのではないかと思っていたが、心臓がドキドキした。
先週末の夜、宮殿で過ごしていた僕のところに有紗さんがいらした。
「ねえ沢渡さん、私とお付き合いしてくださらない?」
僕たちは節度のある大人の関係を続けていくはずだった。・・・有紗さまは陛下の実娘。付き合うとなったら、僕はどんな顔で陛下にお目にかかればいいのか分からなくなる。
「陛下のことは気になさらないで。大切なのは私たちの気持ち。・・・ねえ、そうでしょう?」
そうはおっしゃいますが、陛下は我が国のトップなんですよ?
「無理は言いません。会うのは週末の夜、沢渡さんの部屋でだけ。誰かに話さなければ問題はないはずですよね」
いいえ。王宮人が身につけているピアスで、位置が特定できます・・・。
「大丈夫。これまでもお邪魔していたけれど、何の問題もありませんでしたよね。・・・希と一緒にいたいの。私にはあなたが必要なの。・・・これは私たちだけの秘密」
だから上柳さんには言えない。・・・言えるはずがない。
「でも彼女がいたことはあるでしょう?」
・・・上柳さん、出来ればその話題は避けたいんだけど。
「それって答えなきゃいけないの?」
ここでワタワタしては男らしくない、とも思う。
「そんなことはないんだけど、実際の恋愛経験は演技にも役立つと思って」
上柳さんにしても、単なる好奇心ではなく役作りのために聞いてきていることは分かる。分かるのだけど、僕としては微妙な立場にいるから答えにくい。
「上柳さんのことももっと教えてくれないかな?撮影中は君のことを好きになるから」
え、あ・・・。と彼女の頬が紅くなるのが分かった。・・・あの、言葉どおりに受け取っておいてくださいね。