「ゴメン、来週の晩餐会に出席させていただくことになったから、しばらく帰れなくなりそうなんだ」
夜。沢渡家のリビングにて。
平日の夜、それはそれは楽しそうに夕食を作っている母は、残念そうな顔を見せた。
「晩餐会ってどんなことをするの?」
「間もなく正式に発表されるのだけど、ある国の総理がお見えになるんだ。そして経済に関する会議が昼間に行われるのだけど、夜もその延長みたいなもので、我が国の印象をよくするために盛大なもてなしをするんだ。個人的に親しくなろうとする人がいれば、相手を探ろうとする人もいたり、と、華やかだけど実は戦場みたいなもの。そこで、僕のことを紹介していただけることになったので、いろいろと下準備が必要なんだよ」
相手国についての情報収集や、もちろん僕の専門分野についての報告、そして礼服の打ち合わせなど・・・。たまたま試験と重なって帰りが早いから助かる。今週の水曜日からは部活も中断する。
「見てみたいわね。せめて写真くらいは撮っておいて」
「それどころじゃないんだよ。想像しただけでも緊張して、余裕なんて全然ないから」
「折角のお披露目だからこそ、あんまり無理しちゃダメよ。睡眠不足になるとお肌が荒れるわ」
・・・そういう心配をする?僕は男だよ?・・・そして助けを求めるように父と兄貴を見てみるが、父は母を見て嬉しそうに微笑んでいるし、兄貴は・・・と言えば、こちらも笑っているが、これは明らかに僕たちをダシにして笑っている。助けてくれたっていいのに。母はいつもこんな感じなので、さすがの僕も少々疲れてきている。
「オフクロ、そんなこと言って、希に彼女ができたらどうするわけ?」
うっ・・・。その質問は堪える・・・。
「あら、私は別に構わないのよ。我が家は男ばかりじゃない?かわいい女の子が来てくれることは大歓迎。それに・・・希がどんなに女の子にモテても、母親の座を奪われることはないから大丈夫」
・・・あのう、そういう問題ですか?