5/13 (水) 16:00 待ち人

放課後。僕は生徒玄関近くの廊下で、朝霧と共に人を待っていた。

クリウスの校舎内は土足で大丈夫だが、ほとんどの生徒が車で送り迎えをしてもらうため、車停めにつながる玄関を利用するのが普通である。よって朝夕はその通称生徒玄関と呼ばれている玄関を通ることになるのだが、その先は学年ごとに校舎が分かれているため、他学年の生徒と会うことはあまりない。

「しかし、何もそんなものを持って立っていなくても・・・」

横から朝霧が文句を言うのも分からないではない。僕は小さいながらも花束を抱えていて、そのおかげもあるのか普段よりいっそう多くの人が僕たちを振り返ってはコソコソ話している。

「しかも、ちゃんと連絡は入れたんだよね」

「ううん。だって、驚かせたいんだから」

「もしかしたら、もう帰ったかもしれないよ?」

「そんなことない。大丈夫だよ」

確かにかれこれ20分ほど待っているが、まだ待ち人は現れない。

今日は兼古先輩の誕生日。いつもお世話になっている先輩のために少しでもお礼をしたい、というのが僕のささやかな願いなのだ。部活は試験前で休みのため、待ち伏せするとなるとここが一番確実ということになる。

「・・・にしても来ないね」

「委員会などでも忙しそうだからね」

それとも、彼女である清水先輩と、真っ先に一緒に帰ってしまったのだろうか?すでに人通りはほとんどなくなってしまっている。

「あれ?何やってんの、お前?」

そこへ現れたのは、僕たちの待ち人お二人だった。

「先輩が誕生日を迎えると聞きまして」

僕は、喜び勇んで先輩に花束を差し出す。

「ちょっと待て、いつからいたんだ?」

「最後の授業が終わってから、すぐ来ました」

先輩の顔が、訝しげに歪む。

「ずっと、花束を持ってか?」

「はい。まだ先輩の好みはよく分からないので、とりあえずお花を、と思いまして。お誕生日おめでとうございます」

すると先輩方は、二人で顔を見合わせて笑い出した。

「よかった、辺りに人気がなくて。・・・ありがとう、受け取っておくよ」

「いいえ、どういたしまして」

「できれば、来年はその髪を解いておいてくれない?」

・・・はぁ?何を言い出すんですか、先輩!と思うと同時に、清水先輩の肘が兼古先輩に入り、うっという低い声が漏れた。どうやら兼古先輩も、清水先輩にはタジタジらしい。

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