それは両親に日頃の感謝をする日。何をプレゼントしようか、先日からあれこれ考えていたのだけど結局決まらず、とりあえず夕食には自宅に帰ることにした。
僕の父は食品会社に勤めているが、温和な性格のせいもあるのかなかなか出世はできないらしい。しかし本人はそれについてあまり気にしていない様子で、家でも物静かに僕たち家族の会話を横で聞いているだけである。
一方の母は、何度か紹介しているように夢見る少女のまま大人になってしまったところがあり、父が堅実なのをいいことに、主婦として気ままに暮らしている。
しかしこの二人、今でも仲はとてもよいようで、大体いつも一緒にいるか、もしくは二人で外出するか、と、なかなか微笑ましいところがある。
夕食後、たまには父と話そうかと思い、リビングに残ることにした。
「今日は仕事はないのか?」
そう、普段の僕はすぐ部屋にこもって仕事をしてしまう。だけど今日は例外。
「日頃親不孝な息子なので、今日くらいは一緒にいようかと思って」
父との思い出は・・・、小さい頃、夜の砂浜に寝転がって星を見上げたことかな。
「私は親不孝だなんて思っていない。それどころか、お前は我が家の誇りだよ。今日は一緒にいようと思ってくれただけで十分だ」
・・・そうですか。
「私よりも、祥子と一緒にいてあげなさい。・・・お前は疲れるかもしれないが、頼む。実はお前が宮殿で生活するようになったあと、一時期心を病んでいたことがあるんだ。お前に会えなくなったことで、とても空虚になってしまったらしくてね」
嘘だ・・・。そんな話、今まで聞いたことがなかった。
「それがやはりこのところは調子がよさそうで、私や護も喜んでいる。だから、話し相手になってやってくれ」
・・・分かりました。それはいつ頃このことだろう?と思ったのだけど、聞くのが怖くなってしまった。僕にも、心に病を抱えていた時期があった。どうやらシンクロしていたような気がして・・・。
ともかく、僕は父に言われた通り、まだ台所で家事をしている母のところに向かった。
「あら希。今日の夜食は何にしようか考えていたところなのよ。仕事はいいの?」
その時期があったために、少々過剰な態度に出てしまっているということなのか・・・。
「今日は少しここにいるよ。最近忙しくて疲れているから」
「じゃあ、カフェイン抜きのコーヒーにするわね。少し甘いものもどう?」
うん。甘いものはあまり得意ではないのだけど、いただくことにする。