5/19 (火) 17:00 背中

明日には外賓も多数お見えになる。いよいよ僕の仕事も本番というところだ。

しかしそれ以外で気になることもある。

「沢渡くん、一応聞いておくけれど、試験は大丈夫だよね」

彼は、試験まで一週間を切った途端、王宮の仕事に借り出されている。

「大丈夫です。学校の勉強のほうは、授業中に解決しています」

それはそうだよね。彼は、記憶力、分析力とも優秀だ。高校の勉強くらいどうということはないか。しかし・・・。

「はい、問題は朝霧です。学校の行き帰りにあれこれ問題を出してあげているのですが、なかなか厳しいようです」

晩餐会での演奏のために、十分な練習をしているのだろう。・・・その気持ちも分かる。これは彼にとっては、初めてとも言うべき大役だ。ヴァイオリニストとしての将来を左右する重大な転機になるかもしれない。

「朝霧くんには、次で挽回してもらおうか」

「そうですね」

「でも今回好評だと、楽士としての仕事がもっと増えるかもしれないけどね」

僕としては、そうなることを望んでいる。彼のヴァイオリンは絶品だ。

「ところで、仕事のほうはもちろん大丈夫だよね。今回は僕としても失敗が許されない。君がこのような大舞台に出るのは初めてかもしれないけれど、我が国の代表者であることに関しては、他の高官たちと少しも変わらない。しっかりと任務を遂行するように」

「はい。殿下のご期待に沿えるよう、最善を尽くします」

「君ならできると信じているよ」

「ありがとうございます。・・・それでは失礼いたします」

そして彼は立ち上がり、一礼して僕の執務室から出て行った。・・・そのしゃきっとした後ろ姿が頼もしく感じられるようになってきた。ここ最近の彼の成長振りにはめざましいものがある。それも社会勉強ゆえのことだろうか・・・一度話をしてみよう。

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