「響殿下、またお会いできて光栄です」
そんな言葉をいただけると、そろそろこの仕事も板についてきたのかと思う。
中学入学前に、父の仕事の関係でいろいろな国を訪れた。そこで学んだ各国の言語や異なる文化は、僕の視野を大きく広げ、今の仕事の土台となってくれた。その後中学からはホーンスタッドに腰を落ち着け、高校はクリウスへ、そして入宮し、現在に至る。
外交部門を希望したのは、これまでにいくつかの紛争を目にしたことがあったからだ。少々の利害のために人が殺しあうなんて、なんて馬鹿げているのだろう。確かに人の生命は必ず失われるものだ、しかしだからと言ってわざわざそれを奪うことはない。・・・人の心はいくらでも変わる、しかし一度失われた生命は二度と戻らない。
僕は高校入学直前に、母を病気で亡くした。しかし僕自身よりも父や妹の憔悴ぶりがひどかった。僕には長男として父を支え妹を守る義務が生まれ、落ち込んでいる暇はなかった。確かに生きることは辛く厳しいことだと思う。と同時に、母は僕の高校生姿を見たがっていただけに、どんなにか無念だったことと思う。
母の分も生きる。辛いことがあるからこそ大きな喜びを得ることができる。僕は社会の一員として、一日一日を大切に、そして幸せに生きていきたい。僕が微笑むと、大抵の人は同じように微笑み返してくれる。そんな笑顔の連鎖が世界中に伝わって欲しいと、心から願っている。
よし、これで終了。外賓はすべて予定通りに到着され、迎賓館にご案内した。明日は、昼間は会議、夜は晩餐会。確認しておきたいことは山ほどある。そう考えると、今夜も眠れそうにない・・・。