5/30 (土) 19:30 父と息子

朝霧は俺のことを、まるで沢渡の父親のようだと言っていたらしいが、実際のところそうなのだと思う。・・・年齢的にもあり得るよ、と言った響はさておき。

沢渡がひねくれていたのは、愛情不足が原因だった。それはそうだろう。幼稚園を出たばかりの子どもを親から完全に引き離し、更に沢渡に拒絶の症状が現れると、王宮の不手際を知られないためにと、ますます殻に閉じ込めたのだ。これでは、子どもには興味がなかった俺にでも同情の念が生まれるというものだ。

しばらくは一緒に生活したので、俺は沢渡のいいところも悪いところもすべて知っている。そして彼の苦労はまた、俺自身の苦労だった。今では身体も大きくなり、名実共にエリートの道を歩んでくれているが、それでもアイツのことを心配に思う気持ちは変わらない。・・・いや、週末しか会えなくなったことで、その思いは強くなったかもしれない。

高官ラウンジにて。沢渡の瞳が以前より輝きに満ちているのが分かる。・・・最近ますます綺麗になったな。会うたびに抱きしめたいという衝動に駆られる。

「何?」

そんな視線に気づいてか、彼が食事の手を止める。

「お前を見ていると、若さが羨ましくて腹立たしくなる」

「何言ってんだよ、もう。僕は早く大人になりたくて躍起になっていると言うのに・・・」

フン。そうだ。俺にもそんな時期があった。そう思ってしまうのは、あの頃からは随分遠くに来てしまったということなのか・・・。

「バカ、わざわざ躍起になることなんてない。仕事はいくらでも待ち構えている。それよりも目の前にあることを一つずつ確実にこなしていくことだ」

そう言うと、彼には何か思い当たる節があったのか、表情を引き締めた。

「今のところの僕の評価はどう?率直に言ってほしい」

う~ん。中川長官は随分と沢渡のことを誉めていた。しかし沢渡の場合、誉めすぎると調子に乗るところがあるので、控えめにしておかないと。

「中川長官は、今のところは特に問題はないので、来年度の予算案の作成の時には期待している、とおっしゃっていた。響は、夏休みには秘書として同行してほしいと言っていた。ただし、ある程度の期間は通しで入ってもらわないと他の面々に迷惑がかかるから、部活との兼ね合いを考えてから返事をしてほしいとのことだ」

「お返事は、なるべく早めに差し上げたほうがいいんだよね?」

「できればそのほうがいいと思うけど、今しか出来ないことは何かということををよく考えるべきだ。その意味では、王宮の仕事は急がなくていい。若さを十分に味わって楽しめ」

「人生の先輩の言葉は重いね」

「俺なんか、20代のほとんどを育児に費やしてしまった。それはそれで貴重な体験だったけどな」

「育児とは失礼だよ!・・・確かに最初は、手を焼かせたかもしれないけれど」

「ほぉ~、自覚があるんだ」

「・・・あのね、昔のことを持ち出すのはやめにしてよ、お父さん」

お前なっ!・・・と思ったけど、まあいいか。減らず口は相変わらずだけど、沢渡の成長振りを見ているのは楽しい。焦らず、経験豊かな人間になってほしいんだ。

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