そして毎日、加藤からの報告を受けている。
「やはり、成績がよかったということで更に注目が集まっています。しかし当の沢渡さんはそのことは気になさらず、部活のことばかり考えていらっしゃるようですが」
ああ、何故か沢渡には役が当たらなかったという、あれか。
「その、部長の望月というのはどんな男だ?」
「はい、弁護士の息子です。先日の試験では学年13位でした。演劇は高校に入学してから始めたそうですが、演技力は確かであること、また統率力が優れていることから、信頼は厚いようです。今回のことに関してですが、沢渡さんに対しては、役からは外したものの、態度などは特に他の部員とは変わらないそうです。よって沢渡さんはその状況を受け止め、清水さんと共に演出に関われることを楽しんでいらっしゃるようです」
う~ん、つかめない男だな。確かに、演出を学ぶことはいずれ演技をするときにも役に立つだろう。ただ、オーディションやビデオドラマで演じる楽しさを覚え始めた沢渡には、多少気の毒な気がする。
「しかし、高校生同士の問題だから、俺たちが出る幕はないだろう。明らかな攻撃を受けない限りは、手出しはしないように。沢渡に学ばせるんだ」
「はい、心得ております」
「ところでお前はどうなんだ?教師の仕事はうまくやっているのか?」
加藤は体育の非常勤教師として、週に3回学校に行っている。それがまた、眼鏡をかけるなど変装していると聞いているが・・・。
「私のほうは順調です。体育の先生方は基本的にサバサバした方ばかりですので、特に問題はありません。生徒のほうももちろん、私に気を止めるようなことはありません」
それはいいのか悪いのか・・・。
「私は、人前に出ても目立たないという、特技を持っております。その点はご安心ください」
これはまた変な自信だな。そういう役回りの人間が必要だというのは分かるが、人間というのはこうも違うものだろうか、不思議なものだ。