6/8/(月) 14:00 彼の後ろ姿

クリウスに、人並み外れた美男子一人・・・。

入学式の日、教室に入ってきた彼を見た時から、私の心はざわめき立っている。細身の長身に、腰まである黒髪、涼しげな瞳。・・・こんな人が実在してもいいの?というくらい、まるで絵に描いたような王子さま。・・・カッコよすぎる。しかも彼は私と同じ演劇部志望で、たまたまオーディションとビデオドラマで共演することができた、まではよかったのだけど・・・。近づきそうで決して近づかない距離が、私たちの間にはある。

沢渡くんは基本的に、群れるタイプではないらしい。休み時間は誰かから話しかけられない限り自分の席を動かない、もしくは姿がない。お昼ご飯はいつも、朝霧くんととっているみたい。でも話しかけてみると気さくに返事をしてくれるし、部活では部長や清水先輩と共に、しっかり意見をする。・・・その着眼点はとても未経験者とは思えないほど鋭いので、つくづく感性が豊かなのだと思わされる。ただ、それはやはり彼だけのもの。誰かと分け合えるものじゃない。私にはただ見ていることだけしかできない。

・・・今日も相変わらずカッコイイ。月が替わると席替えがあり、今月は沢渡くんは真ん中より前のほう、私は一番後ろの隅っこ。授業中黒板を見ようとすると、自然と沢渡くんの後ろ姿が目に入ってくる。先月の中間テストでは学年トップだった。そのわりにはガリ勉そうなタイプではない。国から奨学金をもらって留学していたくらいなのだから、元から頭がいいんだろうな。カッコよくて、頭もよくて、運動もできて、性格もいいなんて、世の中不公平すぎる・・・。

他に何か新しい特徴はないかと、沢渡くんを観察してみることにする。

沢渡くんの髪はいつも艶やかでまっすぐ。自分でブローするのかな?一つにまとめて結んでいることが多いけど、時々は後ろは下ろしてサイドの髪をアレンジして留めていたり、青いリボンを編みこんでいることがある。あれは女の子でもなかなかできない。誰かがしているとしか考えられない。

それからいつも姿勢がいい。私も、姿勢をよくしなさいと小さい頃からよく言われているけど、彼は教科書通り、背筋がピンと伸びている。躾が厳しかったんだろうね。座り方にしてもそう。これは部室でのことだったけど、足を組んでいたのがたまらなくカッコよかった。そのままモデルとして雑誌にまで出られそうな勢い。

そして・・・今気づいた。ノートはペン書きしているみたい。普通はシャーペンで書くところを、沢渡くんはペンで書いている・・・しかも青の。そういえば、あるとき私の台本に書き込みをしてくれたことがあったのだけど、エレガントに内ポケットからペンを出して、サラサラと整った文字を書き連ねてくれた。・・・綺麗な字。

そんな何でも優れている人の電話番号とメールアドレスを私は知っているけど、本当の沢渡くんのことはよく分からない。学校以外では何をしているのか、普段着はどうなのかとかは、全く想像できない。

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