ビデオドラマの撮影のとき、私は夢のような気分だった。あの沢渡くんが、
「撮影中は、君のことを本当に好きになるから」
と言ってくれたのだ。私のことだけを見てくれる・・・。
もちろん役の上でのことだし、先輩方が私たちの演技に厳しい目を光らせていたから、気は抜けなかった。でも一度でもあんなふうに見つめられてしまったら、好きにならずにはいられない・・・。その腕の中に飛び込んでいったとき、このままカットの声がかからなければいいのに、と本気で思った。
でもそれは一転して悲劇になった。引き出しの中は、私を非難する手紙で埋め尽くされるようになったのだ。
「何があったの?」
沢渡くんは心配そうな顔で私に聞いてきた。・・・役でではない、真剣な瞳で。
「大丈夫、僕が注意するから。・・・僕のせいで、君をひどい目に遭わせてしまってごめん」
そして優しく私の髪を何度も何度も撫でながら、落ち着くのを待ってくれた。・・・私だけの王子さまのように。
「だから、これからは変な誤解を生まないように、お互い気をつけよう。それでもし、まだ何かされるようだったら僕に言って」
全身で昂っていた血が、一気に引いていくのが分かった。・・・私は何を期待していたのか?・・・確かにそう。こんな展開になって、甘い言葉をかけられるなんて、ドラマの中だけ。
私はいたたまれなくなって、彼の腕から逃れた。・・・分かっちゃったかな?私の気持ち。沢渡くんのことが好きで好きでたまらない・・・。