「でも沢渡くんって、部活以外だと妙に話しかけにくいよね」
お昼休み、村野さんと沙紀、そして私の三人で学食に来ていた。クリウスにはいくつか学食があって、その一部は一般の人にも開放されている。料理はもちろん本格的なので、じっくり味わうためには、座席を予約するのがコツ。・・・でも今日は沢渡くんたちは、ここではなかったみたい。
そんな中、脚本&演出担当なので沢渡くんとよく話をしている村野さんが残念そうに言った。
「昨日ね、清水先輩が、外国のある戯曲についての話をしてくれたのよ。それは最近結構話題になっているんだけど、ホーンスタッドではまだ上演されていないわけ。なのにね、沢渡くんは平然と『それ観ましたよ』だって」
「さすが、留学してただけのことはあるわね」
「そうなのよ、それには清水先輩もビックリで、今日はパンフレットを持ってきてくれることになっているんだけど、部活の時間まで待たなきゃダメみたい。・・・どうにもこうにも、話しかけにくい」
・・・それって、私の件があってから、警戒心を強めているってことなのかな?私は敢えて、教室では挨拶以外はしないようにしているのだけど。
「ねえ、ねえ、ねえ、沢渡くんについてどんなことを知ってる?もちろん、成績とか部活のこと以外でよ」
沙紀が聞いてきたけど、確かに沢渡くんについて知っていることは、相変わらず少ない。
「ねえ、あの携帯、どこに売ってるんだと思う?」
口を出したのは村野さんだった。
「そうだよ。やけに薄くてカッコよくない?あんなのCMで見たことないよ」
・・・言われてみるとそうかも。電話で話しているところは何度か見たことがあるのに、気づかなかった。
「彼女はいないって・・・」
今度は私。ちなみに私が嫌がらせされたことは、村野さんには話していない。
「でもね、朝霧くんと仲がよすぎない?いつでも一緒にいるじゃない」
「登下校も一緒の車でだよ。疑わないほうがおかしいよね」
「でも沢渡くんは大切な親友だって言ってたし、そういう怪しげな素振りは見せないけどね」
普通に友達っぽい感じにしか見えない。それよりは、沢渡くんに彼女がいないということのほうが疑わしい。さっとドアを開けたりとか、女性に席を譲ってあげたりするのを見ると、とても慣れている気がする。何より、恋人役の私に甘い視線を投げかけてくれた。・・・彼にはそれがごく自然にできるということじゃないのかな?