それは休み時間に突然始まった。クラスの男子二人が、ケンカを始めたのだ。
「お前が余計なことをしたから、おかしくなったんじゃないか」
「何だよ、人の親切心をそんなに邪険にしなくても。だったらお前一人でできたのかよ」
「言いがかりだよ。頼んでもないことを勝手にするなって言ってんだよ」
・・・何について言い争っているかは分からないけれど、その二人はいつも一緒にいるから友達なのだと思っていた。でもそんなことよりも、今にもつかみかかりそうな勢いになっているから怖い。・・・みんな手を止めて、遠巻きに見ていることしかできない。
そんな時、立ち上がってつかつかと二人に歩み寄った人がいる。
「ちょっと。ケンカなら外でやってくれないかな。みんなが迷惑してるのが分からないのか?」
凛と響き渡る声。・・・お芝居以外で大きな声を出す沢渡くんって初めて見た。
「お前には関係ないだろ。ちょっと成績がいいからと言って、英雄気取りかよ」
一方の男子が、下品にチッと舌打ちする。
「大いに関係あるよ。うるさくて迷惑しているんだ」
・・・何だか、今の沢渡くんは雰囲気が違う。静かだけど、グッと相手を見下ろす瞳には、とてつもない威圧感がある。
「何だよ、偉そうな口聞きやがって。所詮サラリーマンの息子のくせに」
「君の家は裕福なのかもしれないけれど、それは親の功績だ。君自身には関係ない」
「何だと!」
「勝負するなら堂々と勝負しろよ。親を出してこないと闘えないなんて、相手にするのもバカバカしい」
お前なあ!・・・と相手の男子の瞳がランランと輝いてきたので、更にヤバイ感じ。どうするの沢渡くん。
「生意気な口叩くんじゃねーよ。テメー!」
危ない!っと思って思わず目を背けてしまった・・・けど、辺りはしんとしたまま。こわごわ目を向けてみたら、確かに相手の男子が殴りかかったのが見えたのに、沢渡くんは左腕でそれを防ぎ、逆に右の拳を相手のお腹にピタリと当てていた。
「虚勢を張るのも大概にしろよ」
「・・・クッソー。覚えてろよ」
彼はドラマのようなお決まりのセリフを吐いて出て行った。・・・沢渡くんってケンカも強いんだ。