6/13 (土) 22:30 朗読会

今日から合宿。衣装や大道具、小道具が揃ったので、通しリハーサルをし、セットチェンジなどをチェックするのがこの合宿の目的となっている。それにあたって、今までは清水先輩と見学していることが多かった沢渡くんが、セットの移動を手伝ったり、他の雑用をしたりと、完全に裏方の仕事をするようになったので、ますますもったいないと思ってしまう。

夜。でも地区予選直前ということで3年の先輩方はピリピリしているので、みんなが羽目を外しすぎるということはなかった。あくまでも演劇のことが中心で、あちこちでいろいろな作品についての批評が行われていたりする。

「有名な作品を私たちが演じてみるというのも面白いかもしれないわ。ほら、この間沢渡くんにパンフレットを貸してもらったでしょ、読んでみたら凄く良さそうなのよね」

ソファーセットのところでは、清水先輩と兼古先輩、沢渡くんや村野さんたちが集まって話をしていた。清水先輩はいつも研究熱心で、いろいろな作品を紹介してくれる。

「そのことなんですけど、ネットで見ていたら脚本が売られていたんですよ。もともとは古い作品なんですが、諸事情で日の目を浴びることがなかったのを、ある人が発掘したんだそうです。ちょうど今日、出がけに届いていたので、持ってきました」

「ウッソー、ホントに?もう、そんな大事なことを今まで黙ってるなんて」

「でもまずは練習が大事ですし」

・・・沢渡くんってクール、なんて思っている間に、彼はカバンからその分厚い本を取り出してきて、清水先輩に差し出した。それを横から兼古先輩が覗き込んだのだけど、

「・・・沢渡、これ何て書いてあるんだ?」

すぐさま諦めたように身を引いて、ソファーにどっともたれかかった。確かに、私にも全く・・・。

「ねえ、ここ訳してくれる?」

すると清水先輩は、あるページを開いて沢渡くんに差し戻した。

「訳すんですか?この脚本はとても詩的な表現が多いので、難しいんですけどね・・・」

とか言いながらも、堂々とした声で読み上げてくれる。・・・どうやら、三人による会話のよう。しかしそれを、うまい具合に感情の込め方を変えて、読み分けてくれる。・・・とても知的な会話だけど、ユーモアがあって面白い。そして言葉がとても美しい。

・・・いつの間にか辺りは静まり返っていて、みんな沢渡くんの朗読に聞き入っていた。やっぱり、コンクールに出られないなんてもったいない。

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