6/28 (日) 22:30 自然体

でも、陛下がご不在の時には殿下がいらっしゃるので、それはそれで嬉しい。しかも何やら急にデザートを食べに行くことになり、駐車場に集合するようにと言われた。するとそこにいるのは、もれなく結城。

「ドライバーがいないと、どこにも行けないだろ?」

まあ確かに。殿下は、運転免許を取らせてもらえないと、いつも嘆いていらっしゃる。

「それで沢渡くん、冷たいデザートでいいかな?今日はどうしても食べたいんだ」

殿下がおっしゃるくらいなのだから、よほどおいしいのだろう。僕はお世辞にもグルメとは言えないので、何でも構わない。殿下とお話できるのが嬉しい。

車は高速道路に乗り、あっという間に都心を離れていく。・・・デザートを食べるだけなのに、どこまで行くんですか?しかも、有名な観光スポットですし。でも夜だからか、辺りが気づく様子は全くない。

「沢渡くん、どう?」

そして殿下は楽しそうに僕の様子をご覧になる。

「とてもおいしいです」

「そう、気に入ってもらえてよかった。沢渡くんも遊びを覚えなきゃダメだよ。今度は一緒に舞台を観に行こう」

「ぜひご一緒させてください」

そして僕は、先日清水先輩に見せた外国の脚本についての話をさせていただいた。先輩に頼まれた翻訳の件は無事に果たせて、読んでもらったら部長も喜んでくれた。だから、文化祭で上演してみる方向で話は進んでいる。・・・でもそもそも、面白いと紹介してくださったのは殿下だ。

「殿下はいつ頃から演劇に興味を持たれているのですか?」

「うん、舞がね、演劇に限らず広く芸術全般に興味があるんだよ。だから高校の頃からになるかな?でも今の仕事についてからは、わざわざ情報収集しなくても向こうから勝手にやってくる。そうなると連鎖していくものなんだよ。・・・実は沢渡くんを演劇好きにしようってそそのかしていたの分かった?」

何ですって?・・・殿下はいつの間に。・・・ふと結城を見ると、おかしくてたまらないと言った様子で僕を見ていた。

「僕はね、他人をその気にさせるのが得意なんだよ」

「自分で言うな、全く」

これまた殿下の処世術なのだろう。でもこうして普通のお店で殿下と向き合わせていただいていると、とても優しいお兄さんのように思える。通路を通った人が殿下に気づいて、あ、という顔をした時も、まるで知り合いに会われたかのように「こんばんは」と声をおかけになる。・・・殿下になるべくしてなられたという気がする。

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