そして会うたびに、貴くんの髪は長くなり綺麗にアレンジされるようになっていた。王宮では代々の国王陛下は髪を伸ばし、自分のカラーを身につけるというのが伝統となっている。彼は皇太子に即位することが決まったのだ。
貴くんは肩の下に届くくらいのストレートヘアに、緑色のリボンを何本か細かく編みこんでいる。彼のカラーは緑だそうで、エメラルドのピアスに加え、礼服やスーツに緑色のネクタイやスカーフをあしらっている。
マスコミが一斉に彼のことを報道した時は、不思議な気分だった。テレビで見る彼は紛れもなく王宮の人で、気品に満ち、でも難しい仕事を着々とこなしていく人。のわりに、普段の彼は相変わらず仕事の話を全くしない、気さくな恋人。本当はいけないはずなのに、フラッと私の家に寄って行ったりする。しかも時々は、普通に街に買い物に行ったりする。
ただ、一つだけ言われていることがある。
「僕は仕事を最優先させる。だからいざという時に、君のもとへ駆けつけてあげられないかもしれないけど、許してほしい」
いつも優しい彼らしからぬ言葉だけど、私は彼の夢を応援したいと思った。彼と付き合うということはそういうことなのだ。
一方で私も、念願叶って小学校の先生になることができた。子どもは好き。貴くんには小さな弟がいてとてもかわいがってあげていたから、彼も子どもが好きみたい。仕事は大変だけど、好きだからやっていける。
ただし職場では、彼のことはもちろんタブー。付き合っていることは内緒。でもクリウス時代の友達には今更隠せない。逆に、同窓会のようにみんなで集まるときには彼も来やすいので、一緒に出かけたりする。
“週末会えないかな?”
そんな時、議会直前で忙しいはずの彼から電話があった。声はしっかり疲れている。私に会うよりも、ゆっくり寝たほうがいいのに。
「いいけど、外出は控えたほうがいいんじゃないの?外は今とても暑くなってるから」
“そうだよね。じゃあ、セカンドハウスに来てくれないかな?”
「うん分かった。土曜の夜にね」
多分、すっかり身体的に参っているのだろう。基本的に空調設備が整ったところにいるから、暑さ寒さに弱くなっている。しかも不眠症があるから・・・心配だ。