「沢渡くん、あまりいい返答だったとは思えないね」
申し訳ありません・・・、と沢渡くんは、帰りの車の中でしゅんとなっていた。
「会話としては面白かったよ。でももし君が皇太子になったら、誰かを頼るのではなくて、君ならではの発言をしてほしいね」
「申し訳ありません。今回は、殿下と意見が同じものですから・・・」
う~ん。
「それは嬉しいんだけど、君は僕を通して世の中を見ているところがないかい?おそらく君が皇太子になるということは、つまり、僕が国王になっているということになるだろう。でもだからと言って、いつも僕がいるとは限らないんだよ。今はもちろん、僕のそばにいて僕から得るものがあるとしたらどんどん吸収してほしいけど、君には、君にしか生み出せない発想を求めたい。だから常に、批判的な視線を持ってほしい」
「はい、分かりました」
もちろん、長官は冗談であんなことを言ったのだと思うけど、これはいい機会だと思って。
そして今日の議会は・・・まずまずといったところかな?週明けまで持越しすることなしに、何とかまとまってくれた。
そしてもう一つ、今日は結城の誕生日。・・・時折、僕のほうをチラチラ見ているのが分かる。だけど僕は気づかないフリ。昨日のこともあったので、夕食は沢渡くんと。
「結城は何か言ってた?」
「いえ、何も。夕食に誘いたそうな顔をしていましたが、言われる前に部屋を出てきました」
と沢渡くんは明るく言ったが、実はまだ昨夜のことを少し引きずっているようで、表情は決して明るくはなかった。それもあって、結城は彼のことを気にしていたのだろう。
そう、今日の作戦は、ギリギリまで知らないフリをすること。気を持たせておいたわりには何もしない、そしてもう一日の終わりという頃に、プレゼントを持って彼の部屋に行こう、と。
「さあ、そろそろ行こうか」
「はい」
ケーキとシャンパンを持って、いきなり結城の部屋に行く。・・・バスローブ姿で出てきた結城に、
「誕生日おめでとう」
と、クラッカーを鳴らして、お祝いしてあげた。