宮殿は、さながら一つの町のようである。・・・正確な人数は知らないけど、何千人単位でいくつかの棟に分かれ生活しているので、娯楽施設やレストラン、ジムやプール、スーパーや書店など、たいていのことは外に出なくても解決する。ただし階級社会なので、僕のような楽士にはまだ知らされていない場所がたくさんあるに違いない。・・・現に沢渡は、食事は高官ラウンジで取っているらしいが、それはどこにあるのか!?
夜、喉が乾いた僕は、スーパーに買い出しに行くことにした。ただスーパーと言っても、品揃えには偏りがある。一応各部屋にキッチンはついているのだけど、何せ多忙な人が多いのがこの宮殿。自炊する元気のある人はとても少ないらしく、生鮮食品のコーナーは小さくなっている。でも事前に注文しておけば、何でも仕入れてくれるそうだ。
飲み物とお菓子・・・。スーパーというところ自体、庶民的なところ。高官には側近がついているので、自ら足を運ぶことはない。・・・宮殿生活も4年目となると、同じ顔を見かけるようになる。ただし相手は大人ばかりだし、しかも政官コースの人となると、話しかけたり話しかけられたりすることはまずない。
でも僕はまだ、一人部屋をもらっているからいい。政官コースでは、最初は二人部屋なのだそう。それに比べて楽士の場合、部屋で練習することを考えての防音一人部屋。いつでも練習できる上、ある程度の広さとプライバシーが保証されているのが嬉しい。
結局僕はそんな事情から部屋にいることが多い。基本的に食事は宮殿内のレストランで、そして時々はカフェに行ったりもするけれど、部屋が落ち着く。
さてと、ゲリラ演奏会はどこで開こうか。部活のメンバーにというのが一番手っ取り早いけれど、学校ではヴァイオリンを弾いていることは隠している。かと言って、街角でというのは特にこの暑い時期には気が進まない。・・・あ、でも、演奏を聴いてもらいたい人が一人いる。僕の祖母だ。同じ首都に住んでいるのになかなか会いに行けないから、この機会に行ってみよう。いつも僕のことを応援してくれてもいるし。
では今日も、もう少し練習しよう。