今回は部長の気合いが違う。僕の出番はさほどないのだけど、折角の舞台を、僕のせいで壊してはいけないので緊張する。全国大会のレベルがどのくらいなのか知らないけれど、先日の地区予選で優勝した学校よりはインパクトのある作品に仕上がっていると思う。そして、ある程度の域まで完成しているという手ごたえがあるのか、夜は和気藹々と、あちこちでDVDを観たり、話に花を咲かせていたりする。
僕は自分から話すよりも人の話を聞いているほうが好きなので、遠巻きに見守っていた。すると、上柳さんの友達の沙紀ちゃんが僕のところにやってきた。・・・彼女はかわいらしい印象のせいもあるのか、みんなから名前で呼ばれている。
「ねえ朝霧くん、沢渡くんってまゆのこと何か言ってる?」
「何かって?」
ほら、その・・・と、一瞬辺りを気にすると、更に小声で言った。
「まゆが園田先輩と付き合っていること」
え~、上柳さんっていつの間に彼氏ができたの?というか、園田先輩って誰?
「ウソ~、その様子だと知らなかったの?」
「彼は口が堅いんだよ。・・・でも、それって沢渡は知ってるってことだよね」
「うん。一緒にいるときに沢渡くんに会ったって言ってたから」
う~ん、でも沢渡としてはよかったんじゃないかな?沢渡も有紗さんと順調みたいだし、告白されたのに断るのは辛いって言ってたし。
「ところで、沢渡くんって本当に好きな人がいるの?その人とは付き合ってるの?」
・・・だから、僕に聞かれても答えられないよ。
「聞くなら彼に直接聞いてみたらどう?」
「それが叶わないから朝霧くんに聞いてるんじゃないの。随分親しそうだし、知ってるでしょ?」
「親しいからこそ言えないことだってある」
ふう~ん、と、彼女はつまらなそうな顔をして、ためいきをついた。
「じゃあ、朝霧くんには朝霧くんのことを聞こう。ねえ、何か楽器をしているの?指先が凄く平らで硬い」
え・・・、いつの間に。でもこれは隠せない。
「うん、ヴァイオリンを・・・」
「本当に?聴かせてくれる?」
「でも趣味程度だから・・・」
としか言えなかったのが悲しかった。