でも学校で会うとまた話がややこしくなるかもしれないと思って、電話をかけることにした。
「ゴメン、今いいかな?」
“あ・・・うん。ちょっと待って。部屋に戻るから”
リビングにいたのか、後ろの方からTVの音が聞こえていたが、それが遠ざかり、代わりに彼女の足音がする。
“もういいわよ。どうしたの?”
今日も部活の休憩時間に目が合ってしまい、気まずい沈黙が流れた。
「ねえ、僕たちはもうお互いを意識する必要はないんじゃないかな?できれば仲のいい友達に戻りたいと思っているんだけど、どう?」
うん・・・。彼女の小さな声の後、ドアが開く音と、閉まる音がした。部屋に着いたみたいだ。
“どうって言われても・・・。今は随分状況が変わってしまったから、難しいんじゃない?”
「上柳さんは、このままでいいと思ってる?」
“・・・私たちは、これ以上関わり合わないほうがいいのよ。私には園田先輩がいるし”
そうだよね。でもだから逆に・・・と思うのは僕だけだったのか。彼女の声の様子からすると、まだ僕のことを好きなのかもしれない、と思った。
「分かった。僕が気まずいと感じているのは自業自得なんだね。・・・ゴメン、変な電話をかけて、また困らせてしまって」
自然に納まるのを待ったほうがよかった。どうやらまた蒸し返してしまったみたいだから・・・。
“私が、沢渡くんのことを嫌いになるわけないよ。・・・でも、今はそっとしておいて”
「うん、ゴメン。僕のせいでいろいろ大変なことになって」
“別に謝らなくてもいいよ。沢渡くんは素敵だから”
「ありがとう・・・」
“本番、うまくいくといいね”
「絶対成功させよう」
“うん、じゃ、おやすみ”
おやすみ・・・。つくづく僕は、女心が分からない男だ。余計に気まずくなっていないことを願うけど・・・、どうだろう。