8/7 (金) 22:50 方針

文化祭では、先日沢渡くんが脚本を取り寄せて、しかも翻訳してくれた作品を上演する。それは大学生たちの恋愛ゲームをテーマにしているのだけど、上流階級社会を舞台としているため会話がとても洗練されていておしゃれなのと、一般的なコンクールとは違ってクリウスの学生相手の出し物としてはこのテのもののほうが受けるのではないかと思って、推薦してみた。案の定、部長も気に入ってくれたみたいでよかった。この二週間の休みの間に配役を決めて、台本を送ってくれるそう。

でも、部長はまだまだ沢渡くんを警戒しているように思える。この間の打ち上げの時には握手を求めていたけど、内心は面白くないんじゃないかな?今回の2位は、沢渡くんのおかげのようなものだから。ただ、沢渡くんのために脚本を書き直した部長だって、凄く頑張っていたと思う。新しい台本はとてもいいものに仕上がっていたから、部長としても成長するいいチャンスになったはず・・・とは思ってくれていないだろうけど。

そもそも今の3年は、部長こそ優れた人だけど、他の先輩方はあまりパッとしない。人数的にも少ないし、その上経験者が少ないというか、向上心があまり高くない人が集まったというか、それでいつの間にか私たち2年生がいろんなことに口を出すようになってしまっている。他の3年生の分まで部長が一人で頑張っているのだから誰の目から見ても大変そうなのは分かるのに、プライドが高い人だから助けを求めない。・・・でもそれもあとわずか。この文化祭が終われば、私たち2年生が部の中心になれる。

私の母は小説家で、どの書店にも必ず仕切り板つきで本が置かれているくらい売れている。でも、あまりにも赤裸々に恋愛の話を書き過ぎたせいで、父とは別れてしまった。・・・父とは何年も会っていない。私も母を恨んだ時期があったけれど、ちゃんとシリアスな小説も書ける人だから、今では恥ずかしいと思わない。逆に、父は早とちりをしたのだと思う。

母は束縛しないから、凄く楽でいい。家事にはあまり興味がないみたいだけど、その分きちんと稼いで定期的にプロの手を借りているから、問題はない。

「あなたは、あなたのしたいようにしなさい。人生は一度きりしかないのだから、悔いを残さないようにね」

家でたまに顔を合わせると、母は言う。・・・私のしたいことは、やっぱり演出かな?一握りの人しか演出家になれないことは分かっているけれど、母は小説家として生計を立てている。私にも出来ないことはないに違いない。

とりあえず今は、芸大に進むことを考えている。祐輔は・・・どうするのかな?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です