8/10 (月) 22:50 困った事態

沢渡さんが研修中ならば、私もそうである。沢渡さんが殿下につかれているように、私も殿下の側近の竹内さんの元で学ばせていただいている。沢渡さんはいずれ皇太子になられ、そして国王になられる。私がいつまで側近を務めさせていただけるかは分からないが、沢渡さんは私のことを気に入ってくださっているようなので、できるだけバックアップさせていただきたい。

先週沢渡さんは、一週間しっかりと殿下の秘書を務められた。先日他の秘書の方と揉めてしまわれたが、やはり沢渡さんの能力は素晴らしく、他の方にも認めていただけたようだ。そして明日からはいよいよ外国に出発される。

しかし困った問題が起きた。明らかに沢渡さんの素性を探ろうとしている人物がいるのだ。先日ご自宅までお送りしたとき、帰り道に追跡された。その後お迎えに伺ったときにもそうだった。私共も追跡者を巻く訓練は受けているので何とか振り切ることが出来たが、何らかの情報を提供しないとエスカレートしていくことだろう。まずは、誰が調べようとしているのか、そしてどこまでの情報を提供するか、帰国までに検討しなければならない。

今日はいつもとは違う車で、沢渡さんのお宅に伺った。旅行に必要な荷物を受け取るために。

「申し訳ありません、面倒なことになりまして」

お母さまは、少しでも長く沢渡さんといらっしゃりたいに違いない。しかし危険を冒すことは出来ず、沢渡さんには宮殿にいていただいている。

「どうやら近所の方にあれこれ話を聞いているようですが、お母さまは普段通りになさってください。王宮のほうで対処いたしますので」

「そのあたりはお任せしますが、希に火の粉がかからないようにお願いします。・・・しばらくは、ここに帰ってきてもらえないんでしょうか?仕事が忙しいのは分かりますけど、寂しいものですから」

そうだった。高校へは自宅から通う、というはずだったのに、仕事が増えたために半分くらいは今まで通り宮殿にいらっしゃる。・・・正直なところ、沢渡さんにとって自宅とは、あまり居心地のいい場所ではないようだ。それはおそらく、沢渡さん自身がご家族に対して遠慮なさっているからだと思う。だから余計に自宅にいていただきたいのだけど、実際には宮殿にいていただいたほうが私共の仕事は楽なのである。・・・これはこちらの都合であり、決して申し上げてはいけないことだ。

「それでは、気をつけて、と伝えてください」

「かしこまりました。失礼いたします」

また尾行されるのだろうか?気をつけて帰らなくては。

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