8/19 (水) 22:00 嘘

それはあまりにも突拍子のない憶測だったので笑って否定したけど、続けて読んでみると、調べられることは全部書かれていたので驚いた。僕が地方都市生まれなこと、幼稚園卒園後家族は首都に引っ越してきたが、僕の足取りは不明になったこと、いくつかの国で短期留学をしたこと、高校入学と共に家族と暮らすようになったが、宮殿に頻繁に通っていること。そして朝霧は、宮殿に暮らしているらしいとのこと。

「俺は別に、真実を知ったところで他のヤツに話したりはしない。でも、できれば真実を知っていたほうが、うまく取り繕うことができると思うんだ。だから、よかったから話してほしい」

今まであれこれ推測されることはあっても、面と向かって聞かれたことはなかった。だから、僕は先輩に話そうと思った。まず朝霧は楽士であること、そして僕の家庭教師が入宮したので、僕も宮殿に通っていること・・・。

「じゃ、その沢渡の抜群の成績は、いい先生のおかげというわけか」

そうです・・・。もっとも、加藤ではなく結城ですが・・・。先輩は、分かったよ、と笑いながら去っていったが、はっきりと嘘をついてしまった僕は、後ろめたい気分になった。

「お前には、そのうちめいっぱい羽ばたいてもらうから、今は少し我慢してほしい」

「先輩は僕にとって大切な人なのに、嘘をついてしまった・・・」

たまらずに結城に話を聞いてもらうと、優しく僕の髪を撫でてくれた。

「それなら聞くけど、お前は俺に何か隠し事はないわけ?」

それは・・・。

「でも、話していないことはあるかもしれないけど、嘘はついてないよ。・・・それとも、結城は僕に何か嘘をついているの?」

「・・・いっぱいありすぎて、イチイチ言えないな」

え~、そんな・・・。結城が僕に嘘をついているなんて・・・。

「俺のこと嫌いになったか?」

ううん、そんなわけないじゃないか。僕にとってはかけがえのない人なんだから。

「それはお前のために良かれと思ってしていることだ。大人になると、嘘をついたほうがうまくいくことだってあるんだよ。例えばお前が次期皇太子だって兼古くんが知ったら・・・、彼の父親にも影響が及ぶ。幸い、彼はそこまで詮索好きなわけではなさそうだから、お前のしたことは正解。分かった?」

結城からそんな風に言われてしまうと、そうなのかと思ってしまう。でも朝霧には、楽士だと先輩に話してしまったことを言っておかなければ。

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