有紗さんという人は、僕にはつかみ所がなく難しい人に思える。でも沢渡くんと付き合っている理由は何となく分かる。
彼女は陛下と皇后さまの長女として生まれた。しかし、両陛下は公務がお忙しかったこと、また陛下は有紗さんに特に厳しかったことから、教育その他は仕官に任せっきりにされた。だからきっと彼女は寂しかったに違いない。今では陛下の秘書を立派に務められているが、仕事を通してでしか実の両親に接することが出来ないなんて、端から見てもかわいそう過ぎる。そんな時に、同じく宮殿で寂しい思いをしていた沢渡くんと惹かれ合ったとしても、不思議ではない。
しかし、僕に対しては冷たいような気がしてならない。基本的に僕は人当たりがいいと言われることが多いのだけど、彼女に対してはそれが通用しないらしい。別に僕は個人的に親しくなりたいわけではないので構わないと言えば構わないのだけど、あまりいい気はしない。どうにも、沢渡くんに対して優しい言葉をかけてあげているところが想像できない。
「有紗さんってどう?」
僕は結城をつかまえて聞いてみた。
「どうって聞かれてもな。俺は歓迎されていないみたいだからな」
結城も同じことを言うんだね。
「響まで好かれていないとなると、みんなそう、ということになるな。沢渡を除いては・・・」
そうみたいだね。
「でも、彼女に縁談がいくつも来ているというのは聞いている。それに彼女も、早く結婚したがっているみたいだ」
「それは、家庭の事情から早く逃れたいってこと?」
「そうだろうな。でも沢渡とではな・・・、まだ早すぎるし、余計に陛下と離れられなくなる」
「まだあの年で結婚について考えなければならないなんて、かわいそうだね」
「この状況にいれば、普通は考えるものだろ。お前みたいに外見に反して図太い神経を持っているヤツは少数派だ。結婚することを決めたのに、そんなに多くの女友達と付き合っていても平気なのか?」
だって、別に下心はないし、ただの友達だし、関係ないじゃないか。
「俺は舞さんに同情するよ。全くもう・・・」
そんな言い方しないでよ。僕にとって大切な女性は一人だけなのだから。