沢渡が王宮に通っていること、そして朝霧が楽士であることはあまりクリウスの学生の間では取り沙汰されなかった。･･･きっと面白くないと思ったに違いない。いくら社長の息子でも、王宮が相手となると全く太刀打ちできない。俺には縁がないが、毎年秋に行われる入宮試験では、超エリート･･･例えば全国模試で10位以内に入っているような人、しか合格できないという噂を聞いたことがある。
でも実際、沢渡が王宮に籍を置いている先生から学んでいるだけとは思えない。しかし真相を確かめたところでどうにかなるわけではないし･･･いや、おそらく近寄り難くなってしまいそうな気がするので、聞かないことにする。いずれにせよ、学校ではかわいい後輩であることには変わりがない。ただ、根はいいヤツなんだけど、時々寂しげな表情を見せるときがある。だからどうしても気になってしまう。
それはさておき、いろいろと考えなければならないことがある。文化祭のためのクラスの準備、部活での役作り、その後の生徒会長選挙、そして進路のこと。役作りは何とかなるだろうにしても、文化祭の準備がなぁ、面倒だと俺が言ってしまっては元も子もないが、その辺りのやりくりが生徒会長選挙にもつながってくるだろうから、手際よくやっていかないと。
俺たちのクラスでは、女の子たちがダンスをしようと言い出した。おかげで、夏休みの終わりからは部活だけでなくダンスの打ち合わせも入り、そのための場所の確保や振付師、音楽と衣装などの手配に駆け回った。そして先週からは、クラス全員に覚えさせるためのDVDを配り、今日からは実際の練習も始まった。･･･でももう、ここまでこぎつけたら、あとはうまく本番まで持って行くだけだな。
そして生徒会長選挙では今のところ最有力候補と言われているけど、気を抜いてはいけない。出馬するからには、選挙運動期間中のパフォーマンスをいろいろと考えないと。とりあえず１～３年全員に訴えかけるようにしなければならないが、普段は他学年との接点がほとんどないから何か手を打たないと。･･･これは、演劇部のメンバーに協力してもらうしかないな。部員たちに、手先になってもらおう。
「まったく、ウチの部だって忙しいのに、そんなことを言い出すなんて･･･。でも、それがよさそうよね。祐輔って、そういう根回しのよさは、きっと血を受け継いでいるからなのよ」
美智には笑われたけど、自分でもこういうときに自然と身体が動いているのは不思議なことだ。関係ないフリをしていたけど、親父の選挙の戦いぶりは嫌でも見せられていたからな。