でも、沢渡は元気なフリして役のことで悩んでいるみたいだ。しきりに清水先輩と話をしている。・・・気を紛らわせたいのかな?
夜、僕は殿下からお呼びをいただき、ヴァイオリンを手にお部屋に伺った。・・・けど、当然いるはずと思っていた沢渡がいない。
「今日は朝霧くんの演奏を独り占めできる」
何ておっしゃったけど、相当お疲れなんじゃないかな?顔色があまりよろしくない。
「大丈夫だよ。来週は小旅行に行くし、・・・君たちの文化祭もあるしね」
やはり殿下は観にいらっしゃるおつもりだ。
「旅行はどちらのご予定ですか?」
「国内のリゾート地だよ。時間を気にせずひたすらのんびりしてくる。でも舞は仕事があるから今回は一人。彼女とは年末年始に旅行することにしたんだ」
そうですか・・・。来年にはご結婚なさるとかで、幸せそうですね。そういえば、殿下は高校のときからお付き合いをされていたとか。
「舞さんとは、同じクラスでいらしたのですか?」
「うん、そうだよ。・・・隣同士になったときには、よく教科書を見せてもらったりしたよ。それから学食で食事をしたり・・・懐かしいね。・・・どうしたの?朝霧くんにも好きな人がいるの?」
・・・殿下、鋭すぎます。
「あの・・・それでなのですが、少々演奏に差し障りがあるかもしれません。また日を改めさせていただいてもよろしいですか?」
ここまで動揺させられては、どんな演奏になるか。殿下に聴いていただくのは申し訳ない。
「いや、今日は君のヴァイオリンを聴きたくて来てもらったんだ。聴かせてよ」
「よろしいのですか?」
殿下は大きく頷かれた。
「恋はどんどんするべきだよ。僕たちは男だし、君は一番楽しい高校生だ。最初からうまくいく恋なんてないよ、経験が大事なんだから恐れないで。それに、芸術家なんだから、時には感情的になってもいいんじゃないかな?・・・僕は逆にそれが楽しみだよ」
そうですか?・・・それでは、失礼して。