体育祭では特に変わったことはなく、そしてミスキャスト上演会のことは・・・忘れてしまおう。お願いだから、一生懸命練習した新作のときよりも盛り上がるのはやめてほしい。
そして我が部はそのまま、打ち上げ会場へとなだれ込んだ。今日で三年生は引退。長くもあり短くもあった日々は、貴重な経験続きだった。しかし、今日の主役になっているのは兼古先輩のようで。・・・荒れること、荒れること。でも、みんなはそれを見て楽しんでいる。
「沢渡・・・」
一方、僕は部長に呼ばれて、部屋の外に出ていた。
「聞いているかもしれないけれど、殿下にお会いしたよ。沢渡くんがお世話になってありがとう、って、にこやかにおっしゃった。・・・全然嫌味っぽくなかったから驚いたよ。ただし結城さんからは、いくら相手が男でも顔に手を出すな、って言われた」
また結城は・・・。確かにあの夜、僕は宿泊施設を抜け出して、結城の部屋に駆け込んだ。宮殿に戻る途中で加藤がコンビニに寄り保冷剤を買ってくれたのだけど、それでもかなり腫れていて、それを見るなり結城は激怒しながら僕を抱きしめたのだった。
「殴られたのはわざとですから、気にしないでください。避けようと思えば避けられましたから」
「・・・全く、空恐ろしいことを言うなよ、頼むから。やりきれなくなるだろう」
・・・今ではもう、この人のことはさほど嫌いではなくなっている。僕みたいな人間が珍しかっただけだと思う。でもだからと言って、その相手を攻撃してもいいものか?その辺りはまだ納得できないけれど。
「先輩は今後、演劇を続けるおつもりですか?」
「その機会はないだろう。親父の望み通りに法学部に進んで、弁護士を目指すよ。・・・いずれ国王になる君に比べると、平凡な人生だ」
「そんなことありません。先輩にとって普通なことが、僕にとっては新鮮だったりするんですよ」
「そうだな・・・。折角の学生生活を邪魔して悪かったな」
「いずれにせよ・・・、いい経験でした。ありがとうございました」
でも同時に、何も隠さなくてもいいというのはとても楽だと知った。こんな気分を味わえるのは今しかないと思ったら、残念な気もする。
「さてと、そろそろ祐輔をなだめに行くか。アイツには、これから頑張ってもらわないとな」
はい・・・。いったい何を言われることやら。