今日は彼女が来ていたので、試験終了後に声をかけてみた。・・・その間に、朝霧も沙紀ちゃんに気の利いた言葉の一つでも言うように、と前の休み時間に言っておいた。
「少し時間ある?話をしたいんだけど」
僕はいったん教室を出てから、携帯に電話をかけた。クラスメートがヒソヒソと彼女の噂話をしていたので、教室で誘うのはよくないだろうと思ったからだ。
“ごめんなさい。そんな気分じゃないの”
実のところ、園田先輩との間に何があったのかはよく分からない。兼古先輩が園田先輩に意見してからは、二人一緒のところは見かけなくなった、というだけである。でも、電話に出てくれただけでもよかった、と思った。
「その気持ちは分かるよ。でも、少しだけでいいから聞いてくれないかな?・・・明後日の金曜日、つまり試験が終わった夜に、演劇部のみんなで、部長のお母さまが手がけている舞台のリハーサルを観に行くことになったんだ。公演は土曜日からだから、貴重だよ。一緒に観に行こう」
・・・電話の向こうは黙り込んだままだった。
「別に当日急に来ることになっても構わないから、ぜひ沙紀ちゃんと。・・・それから」
それから・・・、僕は一つ深呼吸してから言った。
「僕は演劇部に戻ってきてほしいと思っている。それを伝えたかったんだ」
“・・・うん、ありがとう”
ありがとう、と言ってくれたということは、脈ありということかな?でも今はそっとしておいてあげるのがいいに違いない。
「それじゃ、また明日」
“うん、また明日”
そして電話を切った。今日はこのまま、会わないように帰ろう。