予算案の作成は難航している。それは沢渡が斬新なアイディアを出しすぎるからであり、周りの閣僚の頭が固いからでもある。沢渡は若さを遺憾なく発揮し、素早く情報処理をやってのける。ようやく、重鎮たちも折れてくれるようになってきたが、沢渡に対しても、一度にあれこれ言いすぎだと言わなければならなかった。何も今回全部をやってしまわなければならないというわけではない。メンバーの仕事のペースも考えておかないと共倒れになってしまうし、もっと長い目で見た計画も必要だ。
とにかくメンバーは誰しも限界を超えており、作業能力が落ちている。でも残り時間は少ない。やり遂げなければならないのだ。・・・コーヒーは飲み飽きた。助っ人はアイツだけ。
「大分参っているみたいだね」
・・・にこやかに笑っているその顔が、幻覚でないことを祈る。
「沢渡くんが相当頑張っているんだって?」
「そうだよ。おかげで大変。でもこの苦境を乗り越えたら、かなり凄いことになる。だから俺も頑張らなきゃいけないと思うんだけど・・・、お前が帰ってきてくれてよかった」
「素直すぎて、怖いよね・・・」
そういえばそうだ。普通なら、響の睡眠時間を気にするところだ。
「大丈夫。僕としたことが帰りの飛行機の中で爆睡しちゃって、パワー全開なんだよ。それよりもお土産」
何?俺にもあるのか?こっちのほうが怖いじゃないか。
「これ?」
うん、そう、と彼は微笑む。・・・ただのTシャツ?・・・何の変哲もないデザイン?
「似合うと思ったから」
「・・・ありがとう」
と言うしかない。・・・何か心境の変化でもあったのだろうか。不気味だ。
「じゃあ、結城はしばらく寝て。その間に、状況を把握しておくよ」
「でも無理するな。明日から働いてくれればいいから」
「分かったよ。それじゃあ、おやすみ」
響は俺の執務室を出て行った。・・・残されたものはTシャツ。・・・しかもこれから冬だというのに?・・・トレーニングのときにでも使うとするか。
これ以上粘っていても成果が上がりそうにない。少し眠るとするか。