1/2 (土) 22:30 こんなところで・・・

語学にはかなり精通している僕だけど、この国の言葉はよく分からない。でも僕が話せる言語と少し似ているので、何とかコミュニケーションはとることができる。

「これから相当勉強しないといけないわね。貴くんは優秀だから大変」

夕食をとるために入ったレストランでメニューを頼むと、彼女がためいきをつきながら言った。

「別に僕の真似をする必要はないよ。舞にしかできないことだってたくさんあるんだから」

「そうは言っても、殿下にふさわしい女性にならないと、国民のみなさんからお叱りを受けてしまうわ」

「舞は十分素敵だよ。それに君以外の誰も、その代わりを務めることなんてできないんだから。・・・僕を困らせたいの?」

そういうわけでは・・・、と彼女がまた口ごもる。

「いいんだよ、ゆっくりで。僕は心配していない。それは、舞が仕事を辞めてからゆっくり考えればいいことだよね?・・・今は最後までしっかり先生を務めあげることだけを考えて。別に結婚は先延ばしにしてもいい。ただ、一緒にいたいだけなんだから」

彼女は、貴くん・・・、と言いながら手を伸ばしてきて、僕の手に触れる。

「フォローしているようで、フォローになっていないわ。・・・相変わらず意地悪ね」

「そんなつもりはないよ。・・・でも、かわいい子ほどいじめたくなっちゃうもの、違う?」

もう、バカ!と舞が珍しく暴言を吐いた。・・・そういうところもまたかわいい。なんて言うと、ますます怒られてしまいそうだけど。

それからもあれこれと楽しく話していると、突然声をかけられた。

“Taka、こんなところで会えるなんて、驚きだね”

僕のほうだって驚いた。こんなところでモーリス殿下にお会いするとは・・・。

「あなたが舞さんですね。以前は電話で失礼いたしました。お目にかかれて光栄です」

早速、彼女の手を取って口づけている。・・・というか、また言葉が上手になっている。

“折角だから、一緒に休暇を過ごそうよ。どこのホテル?”

モーリス殿下はすっかり乗り気で、話を進めてきた。僕のほうとしては舞と二人きりで過ごしたかったんだけど・・・。

「素敵な人ね・・・」

コラコラ。夢見心地で彼を見るのだけは、やめてよね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です