語学にはかなり精通している僕だけど、この国の言葉はよく分からない。でも僕が話せる言語と少し似ているので、何とかコミュニケーションはとることができる。
「これから相当勉強しないといけないわね。貴くんは優秀だから大変」
夕食をとるために入ったレストランでメニューを頼むと、彼女がためいきをつきながら言った。
「別に僕の真似をする必要はないよ。舞にしかできないことだってたくさんあるんだから」
「そうは言っても、殿下にふさわしい女性にならないと、国民のみなさんからお叱りを受けてしまうわ」
「舞は十分素敵だよ。それに君以外の誰も、その代わりを務めることなんてできないんだから。・・・僕を困らせたいの?」
そういうわけでは・・・、と彼女がまた口ごもる。
「いいんだよ、ゆっくりで。僕は心配していない。それは、舞が仕事を辞めてからゆっくり考えればいいことだよね?・・・今は最後までしっかり先生を務めあげることだけを考えて。別に結婚は先延ばしにしてもいい。ただ、一緒にいたいだけなんだから」
彼女は、貴くん・・・、と言いながら手を伸ばしてきて、僕の手に触れる。
「フォローしているようで、フォローになっていないわ。・・・相変わらず意地悪ね」
「そんなつもりはないよ。・・・でも、かわいい子ほどいじめたくなっちゃうもの、違う?」
もう、バカ!と舞が珍しく暴言を吐いた。・・・そういうところもまたかわいい。なんて言うと、ますます怒られてしまいそうだけど。
それからもあれこれと楽しく話していると、突然声をかけられた。
“Taka、こんなところで会えるなんて、驚きだね”
僕のほうだって驚いた。こんなところでモーリス殿下にお会いするとは・・・。
「あなたが舞さんですね。以前は電話で失礼いたしました。お目にかかれて光栄です」
早速、彼女の手を取って口づけている。・・・というか、また言葉が上手になっている。
“折角だから、一緒に休暇を過ごそうよ。どこのホテル?”
モーリス殿下はすっかり乗り気で、話を進めてきた。僕のほうとしては舞と二人きりで過ごしたかったんだけど・・・。
「素敵な人ね・・・」
コラコラ。夢見心地で彼を見るのだけは、やめてよね。