昨夜、
「悪いけど部活を休んでくれ。どうしてもお前の話を聞きたいという人が多いから」
と結城に言われた。待ってました!こちらこそ悪いですけど、部活は休ませていただきます。・・・昨日は、部長と一緒にデパートの美術展を観に行った。
でも、さすがに僕が相手だからか、部長は控えめな態度だった。実際、僕のほうが知っている絵が多かったので、画家や画法、時代背景についてもあれこれ説明させていただいた。でも、その時の相槌の打ち方がとても上手だったので驚いた、のが正直なところ。それが兼古先輩相手となるとこうはいかないのでしょう。・・・そして兼古先輩が僕たちのデートについてどう思ったのかは、まだ聞いていない。
「お若いのに、よく勉強されていますね」
夜、殿下もいらして、奥本総理との夕食会が始まった。先の予算案の作成時にお目にかかっていたが、一緒に食事をさせていただくのは初めてだ。
「彼はまだ高校生なのですよ。・・・ただし、このことはまだ内密にお願いします」
殿下があっさりおっしゃった。総理には隠さなくてもいいのですね。
「そうですか、そのお若さで、これだけの立派な働きをなさるとは、今後が楽しみですね」
「はい。予算案に関しては、彼に直接聞いていただいたほうがよろしいかと思われます。すでに財務長官の引き継ぎも、ほとんど終わっているくらいですから」
そうですか・・・。と、総理は僕に確認を求めるように、あれこれ質問をなさった。
奥本総理は長年政界で活躍されていて、大御所とお呼びするのがふさわしいほど貫禄を備えた男性だ。僕とは祖父と孫ほど年が違うが、仕事ができれば年のことはあまり気になさらない。予算案の作成時こそ疑心暗鬼な表情をなさっていたが、今では熱心に僕の話に耳を傾けてくださる。・・・今回の議会が順調に進んでいることからも、僕の功績が認められていることが分かる。
「どうしても、議会には出席していただけないのですか?議場にいらっしゃらなくても、控え室で待機していただけるだけで心強いのですが」
「残念ながら、彼には学業もありますので、それは今後いずれということで・・・」
「国の予算と一個人の学業のどちらが大切なのかは、火を見るより明らかなはずです。考え直してはいただけないのでしょうか?」
殿下は僕をご覧になることなく、陛下と相談いたします、と答えるにとどまった。