何だか珍しく、今日は揉めている感じ・・・みんなが殺気立っている。こんなとき本当は逃げ出したい。でも唯一の救いは、殿下が穏やかな表情をなさっていること。
今まで多くの方にお会いしてきたけれど、その中で一番出来た人だと思うのは殿下。私には仕事ができるかどうかは関係ない、それよりも大事なのは人柄。
まず、いつも明るく穏やかになさっている。多分私は、殿下が怒っていらっしゃるところを拝見したことがないのではないかしら。慌しいときにも動作は優雅で、物腰も柔らか。イライラなさらない。でもそれでいて、陛下にははっきり意見を申されるし、部下に対してもよく注意なさる。
「有紗さん、こちらを陛下にお渡しいただけますか?」
今日もまた、殿下だけは涼しい顔をなさっている。疲れをお見せにならないこともまた素晴らしい。
「承りました」
「ではよろしくお願いします」
でも殿下には恋人がいらっしゃる。晩餐会などではよく女性と話をなさっているけれど、恋人以外には興味が湧かないらしい。・・・私に対してもただ、仕事仲間としての視線しか見せてくださらない。
一方、恐ろしいと思うのは結城さん。
どうして希が絶大な信頼を寄せているのか理解できない。だって殿下や希とは正反対の人。まずは威圧感を与えるほどの大きな身体に加え、肌はいつも色づいている。言葉遣いは乱暴、また人使いも乱暴。
ただ希に対しては時々優しい態度を見せる。この間も、大事な夕食会の前に、結城さんは希の目をじっと見つめたあとでしばらく彼のことを抱きしめていた。・・・頬にキスをしているところを見たこともある。そして希はそれを嫌がる風ではなく、むしろ快く受け入れているのだ。
一度希に聞いたことがある。
「希にとって結城さんはどんな存在なのかしら?」
すると希は、かなり長く考えたあとで、
「言葉に表すのは難しいですよ。・・・今の僕があるのは結城のおかげですね」
それほど深い絆・・・というか愛情にも近いもので、結ばれているなんて。
「有紗さん、陛下に早くお越しいただけるよう伝えてください」
・・・でもどこに、睨むような目で私を見る必要があるのかしら。