1/21(木) 1:30 誘い

でも希に会いにいくことはできなかった。外賓からお誘いを受けてしまったから。

こういう方々は、自国を離れたついでに羽を伸ばしたいと思っている。となると、とりあえず私に挨拶することが礼儀でありつつ、手っ取り早いのだろう。

“陛下の令嬢ですのにお仕事をされているなんて立派ですね。私の国でも見習いたいところです”

・・・いえ、あまり見習わないほうがよいと思いますけど。

“女性だからと差別する時代でもないでしょう。ただ私には、他の方がなさっているようなボランティア活動などをする時間はありませんので、現実的過ぎるのもどうかと思いますが”

“ですが、陛下のお供でいろいろなところへ行かれるのは、よい経験ではありませんか?”

“確かに旅は楽しいですわ。でも今の私は、安らかで静かな時間がほしいのです。・・・そしてそれは、なかなか得られるものではないのです”

彼は興味深い様子で私のことを見つめていらっしゃる。・・・お酒も大分進んでいるので当然とはいえ、少し危険な感じ。

私も以前は、お誘いを断ることなく早く結婚したいと思っていた。実際何人かとはしばらく連絡を取り合ったこともある。でも、いつも会えないのだったら付き合う意味がないと思ってしまった。もちろん、それを乗り越えれば、この国から離れることができるし、相手の方とも一緒にいることができる。でも、近くには殿下がいらした。・・・私が恋愛対象でないことは分かっていたけれど、いつも優しくしてくださることを忘れるはずがない。どうしても、男性とは殿下のようにあるべきだと思ってしまい、長続きせず終わってしまったのだ。

“束の間の幸せなら必要ありません”

これ以上関わると面倒なことになると思って、先にお断りした。

“あなたも大人でしょう?今後はいつお会いできるか分からない、そんな今という貴重な時間を有意義に過ごしてみたくありませんか?”

それを望んでいた時期もあったけれど・・・、

“私は大切な方の信用を失いたくはありません。大人になった今だからこそ、精神的なつながりを大切にしたいと思います”

そうですか・・・、と彼は目を伏せた。そう、どうせお酒の勢いに流されただけ。私に本気で告白する方なんていないのよ・・・希以外には。

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