そんなこんなで、沢渡のことを気にしながらも俺たちの関係はひとまず落ち着いている。・・・美智は言わないけど、沢渡が意見してくれたことは確かだ。相変わらず高慢な態度をとることもあるけれど、少し印象が変わった気がする。・・・どこをどう、と聞かれると困るのだけど、何となく。それは少し離れていたからかもしれないのだけど。
今日は美智の家で部活の勉強会。・・・しかし沢渡は来られない、と。
「すみません、沢渡は忙しいので」
代わりに朝霧が謝ってくれた。・・・土曜日は基本的には休日だ、でも部活は毎週やっている。ただ本来の活動を行わないとなると、彼の中での優先順位は低くなるというわけだ。
「何に忙しいんだ?」
それは・・・、と、途端に言いよどんでしまう彼。
「詳しくは聞いていませんが、忙しいんだそうです」
「そう」
俺がそれ以上聞かないことが分かると、朝霧は教科書に視線を落とした。・・・沢渡に限って、勉強している姿を見せたくないから来ない、ということはないと思うけれど。
休憩時間、美智は先日のビデオを見せてくれた。・・・俺だって、完成版はまだ観ていない。そしてしばし、演劇談義になる。
「この作品の祐輔と沢渡くんが会社を作ったら、成功しそうだよね。・・・もちろんほとんどは沢渡くんのおかげだろうけど」
うるさいよ、まったく。
「兼古先輩と沢渡くんは本当の兄弟みたいですよ。個人的に打ち合わせをしたりしたんですか?」
「特に役のためにしたというわけじゃないけど、アイツの考えていることは大体分かるよ」
「そうなんですか」
どうした?・・・1年生たちが一斉に顔を見合わせた。
「沢渡くんが凄いのはみんな認めていますけど、最近距離を感じてしまうんですよ。・・・今日だって来ないわけですし・・・、先輩、どうしたらいいのか分からないんです」
それは困った。・・・俺は反射的に朝霧を見る。すると彼は実に居心地が悪そうに肩をすくめた。これは一度話し合っておく必要があるのではないだろうか。
しかし、その後朝霧を捕まえてみたものの、「僕の口からは言えません」の一点張りで、何も聞くことはできなかった。