我ながら、望月先輩の前で泣いてしまったことがショックで、加藤にしばらく慰めてもらう羽目になった。・・・結城は当然仕事。夜まで会えないのに、とてもそれまで平静を装い続けることができそうになかったからだ。
そして夜・・・。今日は宮殿の僕の部屋で朝霧と勉強した後、結城の部屋に向かった。
「どうしたんだ?一体」
結城は風呂上りの酒を飲んでいるところだった。・・・僕は結城の顔を見ると何故か途端に決まり悪くなって、向かい側のソファーに腰掛けた。
「急にだよ。今までの思いが一気に押し寄せてきて、どうしようもなくなってしまった。どうしてこんなことになったのか分からない。それに、これからもこんなことが起こったりするのかと考えたら、怖くてしょうがないよ」
これではただの情緒不安定だ。
「遠慮しないでこっちに来いよ」
結城が自分の隣を指差す。でも、今は行ってはいけない気がする。もう僕は疲れてしまって、結城にこれ以上このことについて話すことさえもためらわれる。こんな顔、結城には見せられない。
「でも俺にどうにかしてほしくて来たんだろ?だったら、そっちにいようがこっちにいようが一緒だ」
確かに。でもどうしてだろう。望月先輩と別れたあとは結城に会いたくてたまらなかったのに、今は逆に迂闊に近づいてはいけないような気がしている。
「まったく、しょうがないな」
結城が立ち上がりますます身を縮みこませてしまったけれど、彼はキッチンに向かった。・・・あれ?そして手にして戻ってきたのは、りんごジュースとグラス。
「何をそんなに思いつめているのか知らないが、まあ、これでも飲んで行けよ」
結城はしっかり僕の隣に腰掛け、グラスにジュースを注いだ。・・・まるで、子どもの頃のようだ。昔は何かあると、いつも結城の部屋に来て飲ませてもらっていた。あの頃からちっとも成長していないことが分かると、余計に気恥ずかしくなってたまらなくなる。
「ごめんなさい、いつまでもこんな僕で」
「いいんだよ。お前は一生俺の生徒だからな」
結城・・・。僕が一口飲むと、あの濃厚なおいしさが口の中に広がってホッとした。すると、結城がよしよしと僕の頭を軽く叩き、逞しい腕で僕を抱えこんだ。