いよいよ明日はコンクール。今日の練習はうまくいったので、何とか無事に本番を迎えられそうだ。また、殿下も十分な成果をあげ帰国された。
「観に行くのを楽しみにしているよ。ただし、うっかりどこかで出会っても知らないフリをしてね」
とオチャメに笑われて、お土産の帽子をいただいた。・・・外には決して被っていけない、恐ろしく変なデザインの帽子を。というか、大体僕は帽子が苦手なのであまり被らないんですけど。
「今日は、いつにも増して髪がツヤツヤね。綺麗」
有紗さんが僕の姿をじっと眺めている。
「さっき、トリートメントをしていただいたんですよ。明日のコンクールで少しでもよく見えるように、と結城が言うので」
「結城さんが、ね」
僕は敢えて、結城の名前を強調して言った。そうしたら有紗さんも、冗談っぽく強調して返してきた。・・・全く、困ったものでしょ。
「ますます綺麗になってしまうなんて妬けるわ。明日の彼女役の子は幸せね」
「いえいえ、僕の彼女役の子たちは、毎回地獄を味わうみたいですよ」
沙紀ちゃんとの関係は、まだ微妙な感じだ。
「今しかないチャンスを楽しめないなんて、かわいそうね。まだまだ子どもだわ」
と言いますと?
「大人になればなるほど感動が薄くなって、なかなか幸せを感じられなくなるものだわ。だから、幸せなときには大事に味わっておかなきゃ。・・・でも残念ながら、私も昔はそのことに気づかなかったんだけど」
そんなことを言われると・・・、大人にはなりたくない、と思ってしまいますね。でも、今の毎日には、刺激がありすぎる気もしないでもないですが。
「だから、希も相手のことを気にしすぎることはないわ。事の重要性に気づかないほうがいけないんだから。でもだからと言って、わざわざ気づかせてあげることはないわ。そんなに親しくされると妬けるでしょ」
「大丈夫ですよ、有紗さん。僕がしたいようにすると、学校ではやり過ぎだって言われるんですよ。それを受け止めてくれるのは、有紗さんだけです」
「あら、私にはまだ足りないくらいよ。せめて・・・もう少しお酒が飲めるようになるといいのに」
「僕にはまだ早いですよ。法律でも許されていませんし・・・」
「乱れた希も見てみたいわね。忠実なのもかわいいけど、大人の魅力もそろそろ必要よ」
・・・この方は、極端すぎるんじゃないのかな?もう少し普通な人はいないのか?