そういうわけで、今日は美智と舞台を観に行くことにした。
「今のところ、コンクールの作品では祐輔にお医者さんの役をやってもらうつもりだから、研究しておいてね」
・・・俺が医者?
「医者に見える?」
「演じようによっては」
そういうことか。はい、しっかり研究させていただきます。
「ということは沢渡が病人?」
「沢渡くんは怪我人、朝霧くんが病人の予定。後は新入部員の子の印象で、沢渡くんの彼女役か妹役かを決めようかなって」
「彼女役はよくないんじゃないか?特に1年生には風当たりが強すぎるんじゃないか?」
「もちろん分かっているけど、一縷の可能性は残しておきたいと思って。・・・うん、別にいいのよ、妹でも」
・・・でもこの期に及んで彼女役を探してるなんて言い出すのは、無神経すぎないか?すでに二人も女優が辞めているんだぞ?同じ女の子なのに、気持ちが分からないのかな?
「美智、お前は例外だってことを、もっと心得ておいたほうがいいんじゃないか?部長としてしっかり後輩の面倒を見てやれよ」
「見ているつもりなんだけど、ダメ?」
「二度あることは三度ある、じゃ、俺も困るから。・・・な、俺は男だからよく分からない、だから美智が女の子たちのケアをしてあげないと」
「うん・・・、そのつもりなんだけどね。・・・分かった、妹役の線で考えることにするわ」
いい脚本を書くのに、人の気持ちを考えられないなんて、意外だった。
「でもね、全国大会でもいい成績を収めたんだし、演劇目当てに来る子もいるんじゃないかと思うの。・・・なんかね、予感がするのよ。いい子が入ってきそうな予感が」
本当か?・・・俺は美智の予言なんて聞いたことがなかったぞ。
「まあ、それは置いておいて、ちゃんと研究してね」
なんて言われて、舞台を観た。・・・医者と言われてもいろんな種類があると思うが、そこはまだ美智も構想が固まっていないとのこと。ただ、舞台で手術など細かいことをしても客席から見えないから、患者との接し方がメインになるのだろうか。
帰りにロビーが賑わっていると思ったら、響殿下がいらしているという話をおばさんたちがしていた。沢渡の憧れの人・・・、もちろん親父は今後もっと近いところで仕事をさせていただくことになるが・・・。
一瞬目が合った気がした。・・・もちろん、気のせいだと思うけど。