「何だか殿下が私のことを見ていらした気がするのよね」
昨夜美智は言っていた。やっぱり気のせいじゃなかったのかな?そして今日も、買い物をしに街に出ている。
「殿下って演劇がお好きみたいね。この間の都のコンクールにもいらしていたそうだし」
「そうなのか?・・・沢渡は殿下に憧れて政治家になりたいんだそうだ」
「じゃ、高校を卒業したら入宮するの?」
「それが、とりあえず大学に進学しようと思っているんだって。しかも何故か建築をやりたいと」
「お兄さんが建築家だから、それも分かるわね。・・・でも、そっか、沢渡くんにはやりたいことがたくさんあるのね」
「それがそうでもないらしい。あまり将来のことを聞かれたくないみたいだったし、なんとなくって感じだった。だったら俺は尚更、何となくだな~」
「何言ってるのよ。もうすぐ3年生なのに、そんなにのんびりしていてもいいの?・・・大臣の息子が」
コラ、それを言うなって言ってるのに。
「美智、正直、演劇で生活していけると思うか?もっと安定した職業に就いたほうがよくない?」
何言ってるの?と、美智は目をぱちくりさせた。
「祐輔って、見かけによらないわよね~」
何だよ。
「保守的だってことよ。私は全然平気。一度しかない人生だから、いろんなことをやってみないと損だって思わない?」
「それはそうだけど、生活も大事だと思うんだ。特に俺は男だし、収入は必要だと思うんだ」
「性別は関係ないと思うけど?」
「だったらお前は、俺が役者になりたいといったら、賛成してくれるのか?」
美智が俺の顔をじっと見る。そして一度、上から下まで俺の姿を見てからまた、顔を見る。
「注目を集めると思うわよ。一通りのことはできるから、それなりに成功するんじゃないかしら?」
「・・・だから、親の七光りで有名になんかなりたくないんだよ」
「そうは思わないわ。何にしたってネームバリューは必要よ。その点では有利なんじゃないの?使わない手はない」
「あのな、俺は親とは関係のないところで生きていきたいんだよ。俺の実力を認めさせたいんだ」
「だったら、祐輔は演劇のほかに才能があるの?祐輔は安定した収入を求めているんじゃない、ただ臆病なだけ。そんな中途半端な気持ちでいるなら、演劇なんてやめてしまえば?」
そんなこと言って・・・。美智は行ってしまった。お前のほうこそ素直じゃないな。応援するのならそう言ってくれれば、俺だって頑張ってみようかという気になるのに。