今日は終業式。もうすぐ2年生だなんて早いものだ。あっという間だったな。
そして今夜は朝霧の部屋を訪れていた。例の、進路について相談するために。
「実は僕も困っていたんだよね。今更音大なんて書いてもしょうがないし、だとしたら留学か・・・、でも楽士としての仕事はどうなるのか、分からないところもあるし」
となると、僕たちを悩ませているのは、王宮の態度ということだったりするのかな?
「朝霧は今後どうするの?」
「今年はコンクールに出ることになっているから、その結果にもよるかな?できればソリストとして音楽を仕事にできたらいいとは思っているけど、この世界そんなに甘くはないよね。でもとりあえず、今の僕はコンクールに向けて出来る限りの事をする、それだけだよ。僕から音楽を取ったら何も残らなくなる。もし失敗したら、と怖くなることもあるけど、僕の夢はあくまでもヴァイオリニストになることだし」
その意味では、兼古先輩と似たような悩みだ。芸術の世界は厳しい。僕は朝霧のヴァイオリンが好きだけど、世間的に受け入れられないと彼が弾き続けることはできない。
また楽士をいつまで続けるかという問題もある。楽士でいれば生活の保障はあるが、活躍の場は狭くなる。僕はもっと世界的に活躍してくれることを願っているのだけど・・・。
「朝霧はいつ、ヴァイオリニストになろうって決めたの?」
「小さいときにヴァイオリンを始めたから、最初になりたいと思ったのがヴァイオリニストだったんだよ。でももちろんその時は、なれたらいいな、という感じだったんだけど、コンクールで最初に優勝したときかな?はっきり思ったのは」
僕は・・・、今まで夢見たことなんてなかった。幼稚園の時にはいろいろ候補があったけど、特にこれ!と思ったものはなかった。その後入宮して・・・、家に帰りたいというのが夢になって・・・。でも殿下にお会いしてからは、政治家になりたいと思うようになったかな?
「でも、進路希望調査書には何と書いたらいいかよく分からないから、とりあえず、クリウスの大学って書くよ。それしかないじゃない」
「・・・だったら、僕もそうしようかな」
「隠し事が多いと大変だよね・・・お互い。でも僕はかなり楽しんでいるよ。僕は客観的な立場にいるから、見ていると面白いんだよ」
・・・僕にはそうは思えない。朝霧のほうが度胸があるということか?
「今度の新入生歓迎会も楽しみだよ。きっと、兼古先輩や沢渡の周辺は大変なことになるだろうね。どうする沢渡?」
「何の話だよ、急に」
「先輩の後を継いで、生徒会長になるとか?」
・・・そんなことは、全く考えていない。今のところ。