両陛下との食事は、滞りなく進んだ。最初はかなり緊張していたようだが、陛下が気を遣っていろいろなことを話してくださったおかげで、表情はかなり和らいでいた。でも、食事はあまり進んでいなかった・・・。
よって、二次会の始まり。引っ越したばかりの沢渡くんの部屋に結城や朝霧くんも集まって、気さくな場を設けることにした。
「殿下、舞さん、この度はおめでとうございます」
沢渡くんが、花束を用意してくれていたのだけど、
「まだ結婚が決まったわけでも何でもないから、受け取れないよ」
「響、沢渡を困らせるんじゃない!」
「では、このお花は舞さんに。陛下とのお食事、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
・・・舞は嬉しそうだ。以前から沢渡くんのことを気に入っていたからね。
「舞さん、響は本当に困ったヤツだから、何かあったらいつでも俺たちに相談してください」
「ありがとうございます」
「いやいや、結城には気をつけたほうがいい。この中では朝霧くんが一番素直でいい人だから、彼に相談するといいよ」
え~!と朝霧くんは目をぱちくりさせている。
「いえ、僕はヴァイオリンを弾くしか能がなくて・・・」
「朝霧さんはヴァイオリンをお弾きになるんですか?」
「はい。・・・王宮の楽士ですから」
「では、ピアノは沢渡さんが?」
「はい。と言っても僕のは趣味程度ですが、殿下からこんなに素敵なピアノをいただいてしまいました。歓迎のしるしに、よろしければ一曲聴いていただけませんか?」
喜んで、と彼女が言って、沢渡くんと朝霧くんが春らしいソナタを演奏してくれた。・・・このピアノは沢渡くんにプレゼントして本当によかったと思う。いくつか見せていただいたのだけど、このピアノを見たときに、何故か沢渡くんが弾いているところが自然と想像できた。そしてそれは、音色を聴いたとき、より確かになった。・・・このピアノがあれば、僕と舞はいつでも心を落ち着かせることができるね。
「素敵だわ、本当にありがとうございます」
舞は目まで潤ませている。・・・そうだよね、緊張の日が続いたからね。今夜は一緒にいてあげよう。
新年度が始まっている。この年は僕たちにとって大きな意味を持つ一年になるだろう。彼女と共に、しっかりと前を向いて歩いていきたいと思う。