そうか・・・。朝霧のことは心配だけど、今は自分のことで精一杯だし・・・、兼古先輩との約束もまだ果たせていないし・・・。そう、兼古先輩は生徒会長ということでとても忙しいらしい。部活にも途中から参加したり、途中で抜けたり。どうせ兼古先輩がいないことには演技シーンの練習が出来ないので、便乗して休もうかとも思ったのだけど、結城がそれを許さない。・・・必要な時は呼ぶから、と。
それにしても、このところ寝ていない。仕事のための勉強に忙しいというのもあるのだけど、常に緊張しているから、神経が昂ってしまって全然眠れないのだ。
「お前張り切りすぎだぞ。もっとリラックスしろよ」
ふとした時に、結城は僕の前に立ちはだかり、じっと眼を見据えた。
「そんなことないよ。別に僕は普通だよ」
「今更、俺の目を誤魔化せるなんて思ってくれるな。全く進歩のないヤツだな」
・・・どうしてそこまで言われなきゃいけないんだ。
「違うって、お前のことを心配して言ってるんだろうが。体調管理は何よりも重要だ。お前に倒れられたら俺が困る」
「・・・でも全然眠くないんだよ。だから大丈夫だって」
「でもいくら若いからといって、睡眠は必要だ。・・・何より俺には、疲れているように見える」
・・・そこまで言われてしまうと、立つ瀬がない。
「じゃあ・・・、どうしたら眠れる?」
「そういうことなら、俺が寝かせてやろうか?」
「いえ、結構です。加藤に頼みます!」
聞いた僕がバカだったよ。・・・いや、結城に面と向かってそんなことを聞いてしまうなんて、それはやっぱり疲れているということになるのだろうか。
部屋に帰ると、加藤はまず風呂に入るようにと言った。・・・いつもとは違う香り。湯船には何かの葉っぱが浮いている。そしてお風呂から上がるとハーブティーが渡され、仲野さんが髪を乾かしてくれた。それから加藤は僕をベッドに寝かせ、マッサージをし始めた。
「・・・まだ寝るには早くない?」
「何をおっしゃっているのですか。これまでに不足した分を考えると、遅いくらいですよ。今後は、ためらわずに沢渡さんの健康管理に手を出させていただきます」
・・・ああ、気持ちいい。さっきまでの頭の冴え具合が嘘のように、辺りがぼんやりしてきた。こんなに早く?
「何か飲ませた?」
「沢渡さんのためですから」
・・・フェードアウト。