午前中に殿下への申し伝えをして、昼食は結城も交えた三人でとり、午後は兼古先輩、部長と共に新入生歓迎会の衣装を買いに行くことになった。
「折角兄弟役なのだから、お互いに意識しあった衣装がいいかと思って」
確かにそれは言えていると思った。僕が演じる弟は、いつも兄の背中を見て過ごしている。しかし、実は本当の兄弟ではない・・・。
「多分、兄としては、弟にも似たような服を着てもらいたいと思っているだろう」
「でも、弟は血がつながっていないことに引け目を感じて、敢えて違うタイプの服を選ぶんじゃないでしょうか?」
「でも、お兄ちゃんのことが好きだから、本当の兄弟みたいになりたいと思って、わざと同じような服を着るかもしれないわよ」
う~ん、そうなんですよね。どれもありうると思う。・・・僕は兄と年が離れすぎているから、あまり実体験が役に立つというわけではない。
「でも待てよ。大体、沢渡と俺が同じ服を着たところで、同じようには見えないと思うんだよ。だからとりあえず着てみてから、感想を聞かせてくれよ」
「え?その前に先輩は自由に選んでくださいよ。それを見てから僕も決めます」
今日は日曜日なので、街は賑やかだ。先輩たちのデートに僕がお邪魔するのは申し訳ないと思ったのだけど、日程的に今日しか空いていなかったし、部長は「私がおまけなのよ」なんて言ってくれたので、出かけることになった。
兼古先輩は、カジュアルな服とスーツを選ぶことにしたらしい。先輩は僕と違って髪は短く肌も色づいていて、爽やかなスポーツマン系に見える・・・かと言って今は特にスポーツをやっているというわけではなく、色が黒いのは遺伝だと笑っていた。そんな先輩の普段着は、ニットを合わせるスタイルが多い。また首元と手首にアクセサリーをつけている。
一方の僕は、カットソーの上にカジュアルなジャケットを羽織ることが多い。僕的にシャツは学校と仕事だけで十分という気がしていて、プライベートで着ることは滅多にない。またアクセサリーはピアスと腕時計くらいかな?
「ねえ沢渡くん、折角なら普段とは違った服を着てみない?」
はい?兼古先輩の服が早々に決まると、部長は嬉しそうにあれこれと服をピックアップし始めた。
「そうだよ、沢渡はジーンズを穿くのか?」
「いえあまり・・・。でも穿かないこともないんですけど・・・」
「あとはもっと真面目そうにしたいから、メガネをかけてみるというのはどう?」
「いいな、それ。・・・そうだ、分かったぞ。一着はニットを着てみろよ。それで髪を後ろではなくて前に持ってくると・・・凄くいい感じだな。家の中のシーンはこれで行こう」
あ、あの・・・。当の僕の意見は二の次ですか?