そして今日から授業が始まった。実は昨日までは、授業のことよりもお昼ごはんを誰と食べたらいいのかで悩んでいたのだけど、後藤さんがいてくれてよかった。
「いいよ、若菜って呼んで。私も深雪って呼ぶね」
う、うん・・・。こんなにあっけらかんとしている友達は、私には初めてかな。学食は、先輩方がたくさんいるからやめようと言ったのだけど、何事も冒険だよ、と引っ張り出されてしまった。
それで知ったのは、学食のメニューと席はネットで予約できるのだということ。しかも5つある学食の混雑具合も分かるというのだから、1年生にとっては嬉しい。
一応、デビューは一番人が少ないところにした。入り口でクレジット機能付きの学生証を機械にかざすと代金が落ち、座席に案内される。とても学校とは思えないほどの贅沢ぶり。もちろん料理がおいしいことは言うまでもない。
「深雪は部活とか入るの?」
「ううん、全然考えてない。できれば面倒なことはしたくなくて・・・」
私は地味に3年間を過ごせればそれでいいの。それに、午前中の授業を受けただけでも、ついていくのが大変そうな気がしたし。
「もう、深雪ってどうしてそんなにネガティブなの?折角の高校生活なんだから、満喫しなきゃ。最低限、彼氏はほしいよね」
ううん。・・・クリウスという学校自体、ハイソで、将来芸能人や政財界を牛耳る人をたくさん輩出するところであって、・・・私みたいなのが来る場所じゃないのよ。ましてや、私と付き合ってくれる人なんているわけない。
「でも深雪のお父さんも社長なんでしょ?全然負けてないじゃない」
「負けてるっていうか、勝負にならないよ、気持ちが違いすぎて。私は平凡に生きて行ければそれでいいの。・・・ゴメンね、ガッカリさせちゃって」
若菜には、もっと明るい子が友達としてはふさわしいと思う。
「そんなことないよ。深雪ってかわいいじゃない。・・・ただ、自信がなさ過ぎる。だってね、高校に入ったということは、これまでの自分とサヨナラするいい機会だってことよ。まだ周りの人がよく知らない今こそ、これまでとは違う自分を作ってみてもいいんじゃないの?」
・・・そこまでポジティブに考えられないよ。私はこれまでの生活に嫌気がさしている。でも何をどう頑張ったって親からは認めてもらえないし、学校では浮いてしまう。だったら何もしないほうがいい。変に期待してしまうと、余計に疲れてしまうだけなのだから。
「うわ~、あの人カッコイイ」
またも若菜は男子チェックに余念がない。・・・確かにカッコイイ人はたくさんいるけど、どうしようもない。同じくらい綺麗な女子もたくさんいるのだから。しかも話をしたところで合うわけはないだろうし。・・・本当は私だって、彼氏を作ってみたいけどね。