4/19 (火) 22:00 大人への階段

僕が入学してから最大の出来事といえば、兼古先輩と出逢えたことだと思う。先輩の気持ちがとても嬉しかった。でもそれだけに、本心から先輩と話せないことに申し訳なさを感じるようになっている。昨日も「どうしてそこまで写真が嫌いなんだ?」と聞かれたとき、本当の事情は言えなかった。もちろん、適当に取り繕えばそれで済むことなのだけど、良心が痛む。このやり場のない感情は何処に向ければいい?

「沢渡さんは面倒の見甲斐があるタイプなので、そんな様子でいらっしゃると、ますます注目を集めてしまわれますよ」

自宅に送ってくれる途中に、加藤は真面目な顔をして言った。

「どういうこと?」

「殿下や結城さんは、沢渡さんが一生懸命悩まれているところをご覧になると、助けたくてしょうがなくなられるみたいですよ。それは年が離れているというせいもあり、高校生の頃が懐かしいというせいもあるでしょうが、主に役得ですよ。心配したくなるような雰囲気をお持ちなのです」

それというのは、危なっかしくて見ていられないという意味だよね。

「ですが、クリウスのご学友からはそうは見られていないと思います。沢渡さんはあくまでも周囲の人間とは少し違う、近寄り難い羨望の的です。兼古さんの場合が特殊なのですから、その好意はありがたく受け取っておかれるのがよろしいのではありませんか?兼古さんは世話を焼きたがるタイプですしね」

人それぞれに社会的な役割があると、昔王宮での教育で学んだ。僕は国を引っ張っていく器であると。確かにクラスで何かを決めるときには、僕が仕切ったほうがうまく行くことには気づいたので・・・またクラス委員になった。でもリーダーがこんなに不安定でいいのか、と思う。もっと強くなければいけないのに、不安が次々と僕を襲う。

「いいのですよ、思春期の頃は悩むことが仕事みたいなものですから、大いに悩んでください。その時期を無事に乗り越えたとき、人は大きく成長するのです。しかしそのためには、周囲の協力も欠かせないということを覚えておいていただけると幸いです」

・・・そうか、そうか。僕はまだまだ一人前には程遠いということなんだね。

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