今日からは撮影。その前に、沢渡くんと昼食をとりながら打ち合わせをすることになった。実は沢渡くんは「僕なんかが指導してもいいのかな?」と心配をしていた。確かにまだ経験は一年しかないかもしれないけれど、今や兼古先輩と肩を並べる役者になっているし、何かと目が肥えているので全然問題ない。でもいつまでも謙虚なところは沢渡くんらしくていい。
「僕が演じて見せる必要はなかったかもしれないよね。村野さんなんて、言葉だけでしっかり指導出来ていたわけだから」
「ううん。教わる側としてはそのほうが分かり易いと思うわよ。川端さんに関してはまだまだ心配だもん。でもオーディションのときみたいな緊張感に包まれると、逆に役に入っていきやすくなるタイプかもしれないのよね」
何故かは分からないけれど、うまくやってくれそうな気がする。
「ただ、石井くんとの相性はどうなのかな?って。相手が沢渡くんだったら、何も心配しないんだけど」
「何言ってるんだよ。僕がやったら逆にダメになるに決まっている」
え?やけにはっきり言い切るね。
「どうして?」
聞くと、今度は沢渡くんのほうが不思議そうな顔をする。
「恋愛モノはやらないほうがいい、っていうのは暗黙の了解でしょ?」
「そうだけど、彼女は何だか特別な気がして」
すると、今度は諦めたように大きく息を吐いた。
「オーディションでのことを言っているなら、それまでの子たちよりも演技が上手だったから、ただそれだけのことだよ。演技が上手な人と共演させてもらえると身体が呼応する、兼古先輩との時もそうでしょ?」
まあ確かに。つくづく沢渡くんは、上柳さんに加えて沙紀ちゃんとのことで懲りたと見える。イイ男というのも困ったものよね。
「話を戻すけど、石井には川端さんと話すように言っておいたから。それとは別に、僕たちの指導法はこのままでいいのかな?撮影の日程はかなりきつくなっているから、現場の責任者を決めたほうがいいと思うんだ。それはもちろん・・・、村野さん、やってくれるよね」
ちょっと待って。決定事項なわけ?
「僕も賛成」
・・・朝霧くんってば、今の今まで口を開かなかったくせに、こういう時だけ参加?!