意外にも結城からは簡単に了承が得られ、とりあえず部活には参加できることになった。その際、理事長に話があるということで結城は一緒についてきたのだけど、部室にまで送りたがって困った。よって、
「いいから。結城が来ると目立ってしょうがないでしょ」
とか何とか言いくるめ、朝霧に連れて行ってもらうことにした。僕は朝霧の右肩に手を置き、歩き始める。
「そんな、軽く手を載せるだけで大丈夫なの?」
「もう1週間になるんだよ。コツはつかんだから」
最初は加藤の腕にしがみついていたが、だんだんいい感じに力が抜けてきた、と自分でも思う。でもできればあまり人には会いたくないと思って、人気がなさそうなところを通ってもらい、呼び止めには手を挙げて軽く答えるにとどめておいた。
部室のドアの前で、目に包帯を巻いてもらった。その方がみんなも戸惑わなくていいと思ったからだ。そして一呼吸して朝霧にドアを開けてもらうと、中から「お帰り」という兼古先輩の声が聞こえた。
「ただいま」
するとみんなから拍手が沸き起こって、何だか嬉しいやら気恥ずかしいやら。部員には、あらかじめ部長から僕の容態について話しておいてもらった。僕が事故に遭って目が見えなくなっていること、そしてもうすぐ手術がありまた見えるようになるということを。
「みなさん、ご心配とご迷惑をおかけしてすみませんでした。部活にはできるだけ参加するつもりですので、よろしくお願いします」
「そうだな沢渡、来て早々悪いけど、やりたいことが山積みなんだ。早速始めてもいいかな?」
はい、もちろんです。僕はそのために来たんですから・・・。
とにかく無我夢中で頑張った。どうやら今回のことでかなりストレスがたまっていたようだ。役の彼が自暴自棄になって先生に当たるシーンでは勢い余って床に倒れてしまったし、それに加えてものすごく涙が出てきてしまって困った。・・・僕自身、この間加藤に当たってしまって結城に怒られたからね、そのあたりは実感が伴っている。
「あ~、沢渡」
練習が終わると、僕は兼古先輩にきつく抱きしめられた。
「もう、何ですか、みんなそうやって僕を抱きしめて。いきなりされると、本当にビックリするんですから」
「だって仕方ないだろ?こんなお前を見ていると、抱きしめずにはいられなくなる・・・」
これが加藤が言っていた役得というものなのだろうか。・・・何だか複雑な心境だ。