5/26 (木) 17:30 役得!?

意外にも結城からは簡単に了承が得られ、とりあえず部活には参加できることになった。その際、理事長に話があるということで結城は一緒についてきたのだけど、部室にまで送りたがって困った。よって、

「いいから。結城が来ると目立ってしょうがないでしょ」

とか何とか言いくるめ、朝霧に連れて行ってもらうことにした。僕は朝霧の右肩に手を置き、歩き始める。

「そんな、軽く手を載せるだけで大丈夫なの?」

「もう1週間になるんだよ。コツはつかんだから」

最初は加藤の腕にしがみついていたが、だんだんいい感じに力が抜けてきた、と自分でも思う。でもできればあまり人には会いたくないと思って、人気がなさそうなところを通ってもらい、呼び止めには手を挙げて軽く答えるにとどめておいた。

部室のドアの前で、目に包帯を巻いてもらった。その方がみんなも戸惑わなくていいと思ったからだ。そして一呼吸して朝霧にドアを開けてもらうと、中から「お帰り」という兼古先輩の声が聞こえた。

「ただいま」

するとみんなから拍手が沸き起こって、何だか嬉しいやら気恥ずかしいやら。部員には、あらかじめ部長から僕の容態について話しておいてもらった。僕が事故に遭って目が見えなくなっていること、そしてもうすぐ手術がありまた見えるようになるということを。

「みなさん、ご心配とご迷惑をおかけしてすみませんでした。部活にはできるだけ参加するつもりですので、よろしくお願いします」

「そうだな沢渡、来て早々悪いけど、やりたいことが山積みなんだ。早速始めてもいいかな?」

はい、もちろんです。僕はそのために来たんですから・・・。

とにかく無我夢中で頑張った。どうやら今回のことでかなりストレスがたまっていたようだ。役の彼が自暴自棄になって先生に当たるシーンでは勢い余って床に倒れてしまったし、それに加えてものすごく涙が出てきてしまって困った。・・・僕自身、この間加藤に当たってしまって結城に怒られたからね、そのあたりは実感が伴っている。

「あ~、沢渡」

練習が終わると、僕は兼古先輩にきつく抱きしめられた。

「もう、何ですか、みんなそうやって僕を抱きしめて。いきなりされると、本当にビックリするんですから」

「だって仕方ないだろ?こんなお前を見ていると、抱きしめずにはいられなくなる・・・」

これが加藤が言っていた役得というものなのだろうか。・・・何だか複雑な心境だ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です