交通事故で目が見えなくなった小宮山は、絶望のあまり心を閉ざしてしまっていた。
看護師:小宮山くん、食べやすいようにサンドウィッチにしたわよ。少しは食べないと体が持たないわ。
小宮山(沢渡):(持たせようとした、その手をはねのける)
山口(朝霧):ねえ君、お腹空くだろ?食べた方がいいよ。
小宮山:いらないって言ってるだろ。食べたって食べなくたって同じだ。
山口:そうかな?僕は食べたくても食べられないんだよ。そういう君の態度は感心しないな。
小宮山:何だよ、恩着せがましいこと言って僕に何をさせたいんだ。放っておいてくれよ。(ベッドから降りてフラフラと歩き出す)
山口:危ない!そっちは窓だよ。
小宮山:(フッと笑って)いいことを教えてくれてありがとう。大丈夫、もう僕は他人に迷惑をかけたりしないから。(窓辺にたどりつき拳を叩きつけて窓を割ろうとするところを、周りの患者が止めようとする)
看護師:危ないわ小宮山くん!そこから離れて!(振り返って)早く、森川先生を呼んで!
小宮山:離せって!(振り切って)あんたらに僕の気持ちが分かってたまるかって。もう僕の人生は終わったんだよ。もう何の意味も希望も見出せない。(渾身の力を込めてガラスを割り、窓枠に立つ)
森川(兼古):やめないか!確かにここは7階だけど、そこから飛び降りたところで、1階下のベランダに落ちて痛い思いをするだけだと思うけどね。
小宮山:え?(振り返り油断したところに森川が駆け寄り、引きずり下ろす)
森山:迷惑をかけているっていう自覚があるなら、おとなしくしていたらどうだ?目が見えなくても前向きに生きている人はたくさんいらっしゃる。確かに今までと同じようには行かないだろう、でも逆に今までは知らなかった楽しみに出会うチャンスでもあると思うんだ。君にもできることがきっとある。ゆっくりでいいから、それを見つけていこう。
小宮山:(まだ納得いかない様子だが、森川に支えられながらベッドに戻る)僕にできること・・・。
「はい、カット。沢渡くん、しっくりこない言動はない?私よりも経験者である沢渡くんの意見を参考にした方がいいと思って」
なるほど、気持ちは分かりますが、
「これはあくまでも芝居なんですから、リアル過ぎてもどうかと思うんですよ。もちろん僕は経験を演技に活かしているつもりですけど、全体のまとまりとか見え方とかがよくなければ、意味がないんじゃないですか?あの・・・僕に気を遣ってくれなくても大丈夫ですから。これは演技として割り切っていますし、こんな風に喜怒哀楽を激しく表すことはストレス解消にもなりますから、遠慮なく何でも言ってください。何より、僕にはどう見えているかが分からないので、そのあたりの指示をお願いします」