沢渡くんは明日手術を受けることになった。それを聞いて、加藤だけには任せておけない、と結城も出かけてしまった。
ロマノ共和国との関係は特にこじれていない。元を正せば誰のせいというわけでもないのにもかかわらず、ロマノ側からはお見舞いの金品が少なからず送られてきて、また沢渡くんにワインを飲ませた経済流通長官からも、個人的なお見舞いの品が贈られてきた。しかしそれらの処理はすべて沢渡くん抜きで行っている。沢渡くんはまだ表舞台には出ていない人間だ。だから事を荒立てないように内密に、そして本人同士の責任は問わないことにした。
沢渡くん自身も、あまり人に会いたくないようだ。社会情勢はすべて知らせるようにしているが、突っ込んだ質問や意見はしてこない。
今は手術で回復してくれることを祈るのみ。
今日は舞も含めて今後のスケジュールについての打ち合わせをした。彼女のお妃教育は至って順調で、来週には婚約の儀と会見を行うことになっている。そして結婚の儀は10月。僕が沢渡くんのことで立ち止まっている間にも、周りの人間は忙しく動いていた。毎日のように確認事項が回ってきて、竹内が対応に追われている。
しかし正直に言うと、あまり実感が湧かないというのが実情だ。何かにつけ仕事の一環という認識がつきまとうし、すでに舞は僕の部屋で一緒に生活をしているから、今更・・・と思ってしまうのだ。
「竹内、僕たちがゆっくりできるのはいつ?」
すると竹内は、ギョッとしてスケジュール帳をめくり始めた。
「何日あれば、ゆっくりになりますか?」
「そうだね~、一週間」
・・・竹内の目が点になってしまいかわいそうだったので、譲歩して三日ということにしておいた。舞のためにも、身内だけの式を執り行いたいと思っている。僕たちだって一国民には違いない、家族や友人だっている。だから、そんなごく近しい人たちだけを集めて、僕なりにけじめをつけておきたいのだ。形式的なものではなく、きちんと決意を伝えられる場を持ちたい。その代わり、新婚旅行は年末年始まで待ってもらうから。
「結婚の儀の直後なら、みなさんも大目に見てくださるのではありませんか?殿下としても、表向きの式とタイムラグがないほうがよろしいですよね」
そう。このままでは舞にも失礼だ。
・・・結婚か。同級生には意外と既婚者は少ない。彼らは、とにかく今は仕事が忙しくそれどころではないと言う。僕もそうなのだけど・・・、僕たちの例はあまり参考にはならないか。状況がかなり特殊だからね。